本稿では旭化成株式会社の有価証券報告書を紐解いて会社分析をしていきたいと思います。経営状態や組織図をざっと俯瞰し、自分が本当に目指したい会社なのかの検討に役立てて頂ければ幸いです。
旭化成の基礎IR情報
回次 | 第124期 | 第125期 | 第126期 | 第127期 | 第128期 | |
決算年月 | 2015年3月 | 2016年3月 | 2017年3月 | 2018年3月 | 2019年3月 | |
売上高 | (百万円) | 1,986,405 | 1,940,914 | 1,882,991 | 2,042,216 | 2,170,403 |
経常利益 | (百万円) | 166,543 | 161,370 | 160,633 | 212,544 | 219,976 |
自己資本比率 | (%) | 53.7 | 47.1 | 51.1 | 55.8 | 53.6 |
自己資本利益率 | (%) | 10.6 | 8.6 | 10.5 | 14 | 11.1 |
営業活動によるキャッシュフロー | (百万円) | 137,597 | 216,218 | 168,965 | 249,891 | 212,062 |
2019年度は売上高2兆1700億円に対して営業利益2200億円。営業利益率10 %。化学企業での全体平均がここ五年間は6-8%程度(財務省発行 年次別法人企業統計調査 より)なため平均より高いといえます。
売上は2兆円界隈でうろついていますが、営業利益率が上昇傾向にあることから堅調に利益の出る体質に変化させていると考えられます。
財務的には就職先としてオススメできます。また福利厚生も良いと評判なので働きやすい環境だと愚考します。某5chの就職偏差値でも最高位に属しているとおり、理系就活生なら誰しも候補としたい企業ですね。
旭化成の注目ポイント
リチウムイオン電池でノーベル化学賞を受賞
2019年10月9日に旭化成名誉フェローの吉野彰氏にノーベル化学賞が送られた。リチウムイオン電池を多岐にわたる製品に普及させた功績を湛えてのもの。
吉野氏は1990年代にリチウムイオン電池を開発しましたが、当時は全く売れなかったのは知る人は少ないでしょう。そこから小型化の研究をしていった時期にIT革命と重なって爆発的に普及しました。
素晴らしい製品でも時代が追い付いていなければ全く価値に気づかれません。はっきり言って、あとは運といえるでしょう。でも努力し続けなければ運は巡ってこないので「成功には努力が必要不可欠」だと思い知りました。
マテリアル・住宅・ヘルスケアのいずれも利益率10%越えと安定
他社大手でさえ主力製品は利益率10%近くても、モノにより利益が出ていない製品を抱えていることが多い。
すでに収益を支える柱を確立済のため企業として強い。
特にマテリアル分野では苛性ソーダなど利益の出にくい汎用製品をスペシャリティを付与した中間製品を製造することで利益化に成功している。自社で源流製品を作ることで供給リスクを削減できるので評価できる。
ヘルスケア事業の拡大に期待
医薬品などのヘルスケア事業は大きな付加価値を生む。
骨粗しょう症や関節リウマチなどの年配者に患者が多い疾患を狙った医薬品は、老年人口が激増するこれからの日本国内でも需要が右肩上がりに増える可能性が高い。
未だ3000億円台と全売上高の2割にも達していないため成長が楽しみです。
サランラップやヘーベルハウスなどの知名度が抜群
BtoC関連でも有名な商品を手掛けていて巷に名前が知られていることは武器になる。例えば新たな事業を開拓していく上でも、有名企業であれば話がすんなりと通りやすい。
近頃ではクラレやDICなどのBtoBに特化した化学企業もCMをうつほどに企業イメージを浸透させることは事業戦略上も重要なことである。
ただヘーベルハウス=旭化成と結びつく人が少ないのが悲しいところ。
安定した経営力でB/S上は文句なし
安定して平均以上の利益を出しているだけでなく、自己資本比率50%と悪くない値であり、営業CFも大幅なプラスで毎年推移している。投資CFがマイナスなことからも積極的な設備投資が行われていると読み取れる。
流動資産も流動負債の1.5倍ほど回っているため資金が焦げ付くなんて心配は全くない。
間違いなく10年後も生き残っている企業であり、化学系技術職の就職先候補の一つとしてはぜひオススメしたい優良企業。先行きは光明がみえている。
旭化成の就活情報
学歴ボーダーライン
技術系総合職は旧帝大以上がメイン。東大や阪大などのメンツと勝負せねばならないため気張る必要がある。内定は難関。
就活選考フロー
個別説明会 ⇒ ES提出 ⇒ 技術面接 ⇒ 最終面接 ⇒ 内々定
重要な沿革
1931.5 | 延岡アンモニア絹絲株式会社設立(当社の設立:1931年5月21日 資本金1,000万円)、アンモニア、硝酸等化成品を製造・販売 |
1935.9 | グルタミン酸ソーダを製造開始、食品事業へ進出 |
1943.4 | 旭ベンベルグ絹絲株式会社は、日本窒素火薬株式会社(ダイナマイト等を製造・販売)を合併し、社名を日窒化学工業株式会社と改称 |
1946.4 | 日窒化学工業株式会社は、社名を旭化成工業株式会社と改称 |
1959.5 | アクリル繊維「カシミロン™」の本格製造開始、合成繊維事業へ本格展開 |
1960.9 | 「サランラップ™」を販売開始、樹脂製品事業へ進出 |
1972.9 | 「ヘーベルハウス™」を本格展開、住宅事業へ本格進出 |
1999.7 | 食品事業を日本たばこ産業株式会社へ譲渡 |
2001.1 | 旭化成工業株式会社から、旭化成株式会社へ社名変更 |
2016.2 | 旭化成ケミカルズ株式会社水島製造所のエチレンセンターを停止 |
2018.9 | 米国Sage Automotive Interiors,Inc.を買収及び連結子会社化 |
平均給与・勤続年数
従業員数(人) | 平均年齢(歳) | 平均勤続年数(年) | 平均年間給与(円) |
7,864 | 42.3 | 15.8 | 7,871,666 |
旭化成も従業員数は規模的には適正~多めといった印象です。勤続年数が16年というのは少し短い印象です。どこかにブラックな部署や人間関係が良くない部署がある可能性が高いかと。平均給与も業界ではやや高めの水準。
平均給与額の算出方法がこれといって定められていないため、各社によって”どの職責までを平均に組み入れるのか”という基準が違います。
不当に低く見せたり、不当に高く見せたり自由自在です。
特にメーカーは社員の給与が高すぎると、それをダシにして取引先からもっと製品を安く売れとか恐喝されるので各社低めに算出する傾向があります
旭化成の研究開発方針
「マテリアル」セグメント
繊維事業
主力製品:ポリウレタン弾性繊維「ロイカ™」、キュプラ繊維「ベンベルグ™」、ナイロン66繊維「レオナ™」及び各種不織布。
独自性を活かした新たな価値商品の創出や、生産プロセスの革新を進める。新規セルロース素材の事業化や、高機能テキスタイル、新基軸不織布の開発などに新事業領域の創出に取り組んでいる。
ケミカル事業
全体として触媒関係が強みのためブラッシュアップに継続的に取り組む。
水島製造所内に炭酸ガスを原料とするジフェニルカーボネートの実証プラントを建設し、2017年1月から実証運転を開始。2018年度中には更なる運転安定性と操作性を確認。
高機能ポリマー事業
新ポリマー設計による高剛性・易成形性のポリアミドや次世代省燃費タイヤ用変性SBRなどの開発が進捗。
独自CAE(Computer Aided Engineering)技術の高度化を推進し、機能樹脂事業において新規用途開拓と海外展開を模索中。
高機能マテリアルズ事業・消費財事業
環境に配慮した食塩電解プロセス用のフッ素系イオン交換膜の開発を強化。
電子材料として次世代電子デバイスの要求に対応できる感光性樹脂材料の開発を加速。
セパレータ事業
高分子設計・合成や、製膜加工などのコア技術を活かした「省資源・省エネルギー」「環境負荷軽減」に貢献する新規材料の開発を推進。
民生・車載・電力貯蔵用途に展開するリチウムイオン二次電池用高機能セパレータや鉛蓄電池用セパレータなどの環境・エネルギー関連素材の展開に注力。
電子部品事業
IoT社会の進展に対応して、「磁気」「音」「可視外光」「高周波」を主軸にエンドユーザーの利益に繋がるソフトウェアを提供できる技術及び製品の開発を推進。
ミックスドシグナルLSI・化合物半導体・高機能パッケージなどを融合し、独自のソフトウェアを活かした高機能電子部品の開発、モジュール型製品への展開に取り組み。
「住宅」セグメント
住宅事業
ロングライフ住宅を支えるコア技術の重点的な研究開発を継続。シェルター技術については、安全性、耐久性、居住性、環境対応性を重視した開発を実施。
住ソフト技術では二世帯同居などの住まい方についての研究。
評価・シミュレーション技術については、ITなどの活用により直感的に理解可能な環境シミュレーションシステムの構築を進展中。
住宅における生活エネルギー消費量削減とともに、人の生理・心理から捉えた快適性を研究し、健康・快適性と省エネルギーを両立させる環境共生的住まいを実現する技術開発に注力。
建材事業
安全、安心、快適を向上させる事業ビジョンとし、軽量気泡コンクリート(ALC)、フェノールフォーム断熱材、高機能基礎システム、鉄骨造構造資材の4つの事業分野において基盤技術の強化。
「ヘルスケア」セグメント
医薬事業
整形外科領域(骨、疼痛など)及び救急領域を中心に有効な治療方法がない医療ニーズを解決、QOLの向上を図ることを目指して研究開発。
治療の可能性を広げ、医療水準を向上させるためグループ総力をあげた研究開発に取り組む。
培ってきた豊富な基礎技術と研究開発の応用により、人工腎臓、血液浄化技術、白血球やウイルスの除去技術を発展予定。
クリティカルケア事業
突然の心停止からの生存率を向上する技術開発を原点とし、新規領域にも研究を拡大。急性心筋梗塞・脳卒中・敗血症・呼吸困難など、予後の悪い数多い緊急疾病に対する新規治療法や技術を開発。