本稿では株式会社ダイセルの有価証券報告書を紐解いて会社分析をしていきたいと思います。経営状態や組織図をざっと俯瞰し、自分が本当に目指したい会社なのかの検討に役立てて頂ければ幸いです。
ダイセルの基礎IR情報
回次 | 第152期 | 第153期 | 第154期 | |
決算年月 | 2018年3月 | 2019年3月 | 2020年3月 | |
売上高 | (百万円) | 462,956 | 464,859 | 412,826 |
経常利益 | (百万円) | 61,093 | 53,433 | 31,781 |
当期純利益 | (百万円) | 37,062 | 35,301 | 4,978 |
包括利益 | (百万円) | 44,214 | 38,968 | 2,299 |
自己資本比率 | (%) | 60.1 | 60.1 | 60.6 |
自己資本利益率 | (%) | 9.82 | 9.07 | 1.32 |
株価収益率 | (倍) | 10.78 | 11.41 | 50.94 |
営業活動によるCF | (百万円) | 66,888 | 58,523 | 57,193 |
投資活動によるCF | (百万円) | △33,189 | △41,095 | △45,864 |
財務活動によるCF | (百万円) | △1,962 | △25,636 | △47,883 |
2020年度は売上高4130億円に対して経常利益318億円で経常利益率 7.5%です。
化学企業での全体平均がここ五年間は6-8%程度(財務省発行 年次別法人企業統計調査 より)なため、過去4年間ベースで考えても高い営業利益が出ています。売上規模としては化学メーカー全体では巨大企業寄りの中堅といったところ。
ダイセルは旧社名の略称
ダイセルという名前は大正9年に設立された母体である大日本セルロイド株式会社を縮めたものです。近頃では○○工業という名前は古臭く、ウケが悪いので変更する企業が多いですね。
CMにも力を入れています。ひたすら「ダ」という言葉を繰り返す謎のCMソングでおなじみのダイセルです。筆者はいつも一本満足のCMソングと間違えます。
こういった企業知名度向上の取り組みは、事業拡大で新規開拓を行う際に顧客との交渉をスムーズに行えるというメリットがあります。また採用面で学生さんが沢山きてくれる点も見逃せません。
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本業はセルロース事業や合成樹脂事業
有機高分子化学を基軸として様々な高付加価値製品を製造しており、具体的には酢酸誘導体などの樹脂材料や成型加工品などです。とくにたばこフィルター用トウはシェア国内シェア100%と独占状態です。しかし、たばこ産業自体が落ち目なのでこの分野を大きく伸ばすのは難しいでしょう。
航空機搭乗員緊急脱出装置や発射薬などの火工品を扱っているのは面白いですね。分かりやすくいうと戦闘機で搭乗員が緊急脱出するための発破薬やロケット砲弾を発射する火薬部分を作っているということです。つまり日油と同様に防衛関連業という側面もある。これは意外でした。
ダイセルの注目ポイント
4つの基軸事業における高い営業利益率
高分子化学の機能性プラスチック系を扱っており、いずれも高い利益率を出せている。
開示ではとくに有機合成事業の売上高が20%近く伸びており、昨年度も酢酸の原料製造設備の更新や合理化・省力化などに全設備投資額の50%程度にあたる216億円の設備投資をしている。
この有機合成関連分野に光明を見出している可能性が高く、最近の新卒はこの分野の工場に配属される者が多いかもしれない。
売上高は伸び悩んでいる
営業利益率はとても高い水準にあるものの、5年間で売上高は殆ど変わっておらず現状維持の状態である。伸びるための起爆剤が欲しいところ。
中東情勢が不安定になり、アメリア界隈の防衛関連の需要が高まれば売り上げも伸びるかもしれない。ある意味ホットな企業。
上述の有機合成関連分野を伸ばせれば言うことはありません。伸び悩んでいるとはいえ、社員にとっては安定していて素晴らしい企業です。
安定した経営力でB/S上は文句なし
高い利益率に加えて自己資本比率60%もある安全運転に加えて営業CFも大幅なプラスで毎年推移してします。流動資産も流動負債の3倍くらいあるため資金が焦げ付くなんて心配は欠片もございません。
ただフリーキャッシュフローがマイナス転落しているのは気になりましたが、社債の償還や自己株式取得による一次的なモノですので問題はないでしょう。昨年度はプラスでしたし。
間違いなく10年後も生き残っている企業であり、化学系技術職の就職先候補の一つとしてはぜひオススメしたい優良企業。たばこフィルターだけでなく稼ぐ力を持っているので先行きは光明が見えていますね。
ダイセルの就活関連情報
学歴ボーダーライン
技術系総合職は地方国立大学院生以上なら可能性がある。基本的に神戸大・京都工芸繊維大学などの関西の上位国公立がボリュームゾーンであり、旧帝以上の割合は少ない。
選考フロー技術系詳細
ES提出⇒書類審査⇒筆記試験⇒面接(指導教官による推薦重視)⇒ 内々定
技術系では45名程度の募集があり、教授の推薦書を出さないと殆ど先へ進めない可能性が高い。強く希望するならば推薦書を出す準備をしておくべきかと。
就活生界隈でも知名度は高くなかった
筆者が就職した頃はダイセルは本当に知名度が低く、一流大企業だというのに殆ど応募がありませんでした。通常は20~100倍程度の競争率になる技術系でも、倍率4倍というビックリな数値だったのを覚えています。
人が集まりにくい理由として看板製品がたばこフィルターだからかなと感じました。身体に悪影響を及ぼす製品のシェアNo1といっても、あまりいい印象を持たれないのではないでしょうか。加えてたばこ増税も相まって、とくに若い世代はたばこへの関心が薄いのも起因していると思います。
財務を見る限りでもとても良い会社で、知名度もそこまで高くないので穴場スポットです。R&Dセンターも兵庫県姫路にあるので関西の方には大いにオススメします。
ダイセルの事業分野
セグメントの名称 | 売上 (億円) | 経常利益(億円) | 経常利益率(%) | 従業員数(人) |
セルロース事業 | 832 | 160 | 19.2 | 352 |
有機合成事業 | 895 | 144 | 16.1 | 1,067 |
合成樹脂事業 | 1758 | 206 | 11.7 | 2,680 |
火工品事業 | 1078 | 156 | 14.5 | 6,157 |
報告セグメント計 | 4563 | 666 | 14.6 | 10,256 |
虎の子のたばこフィルタが属するセルロース事業は全体の2割しかないものの、利益率が20%と高く素晴らしい製品である。また従業員や売り上げの分布から、ダイセルが最も人員を割いて注力しているのは合成樹脂事業と火工品事業である。
有機合成事業においては、2017年7月18日に過酢酸製造プラントでの火災事故が発生。幸いにも人的被害はなかったが、装置破損と関連するプラント全体の停止があったため売上・利益が減少している。
まだ事業としては主力ではないが、水処理用分離膜モジュールなどのメンブレン事業や運輸倉庫業もほそぼそと稼働している。これらは80億円と全体売上の2%程度の規模。
主要事業の動向
セルロース事業部門
酢酸セルロース:液晶表示向けフィルム用途・たばこフィルター用途の販売数量が減少し、売上高は減少。
たばこフィルター用トウは、世界的に需給が緩んでいる。その中で主要顧客との関係強化や新規顧客開拓によって販売数量は前年並みで維持しているものの、売上高は減少傾向にある。
有機合成事業部門
主力製品の酢酸:堅調な需要により売上高は増加
化学合成品:部製品の販売数量は減少したものの価格改定により売上高は増加。
機能品:原燃料価格の上昇に伴う販売価格の改定や、コスメ・ヘルスケア分野の需要が堅調に推移。売上増加
光学異性体分離カラムなどのキラル分離事業:カラムや充填剤の販売が増加したことで売上高は増加
合成樹脂事業部門
エンジニアリングプラスチック事業(ポリアセタール樹脂、PBT樹脂、液晶ポリマー):中国での景気減速の影響を受けたが、自動車部品の需要増加や新規採用が進んで販売数量の増加。価格改定も相まって売上高は増加
樹脂コンパウンド事業(ABS樹脂、エンプラアロイ樹脂):販売数量は減少したが、販売価格の改定により売上維持
樹脂加工事業(シート、成形容器、フィルム):主にフィルムの販売が増加し、売上高が増加
火工品事業部門
自動車エアバッグ用インフレータ:販売数量は増加したが、販売品種構成の変化により売上高は減少
防衛関連製品などの特機事業も手掛けている
その他部門
水処理用分離膜モジュールを扱うメンブレン事業:売上高が増加。
平均給与・勤続年数
従業員数(人) | 平均年齢(歳) | 平均勤続年数(年) | 平均年間給与(円) |
2,421 | 41.3 | 16.2 | 7,694,376 |
ダイセルは売上にしては従業員数が少なめです。大正から続く歴史ある企業のわりに勤続年数が16年と短めなのが気になります。どこかブラックな部署が大幅に勤続年数を押し下げている可能性は考えられます。
平均給与も業界では中の上といったところ。
平均給与額の算出方法がこれといって定められていないため、各社によって”どの職責までを平均に組み入れるのか”という基準が違います。
不当に低く見せたり、不当に高く見せたり自由自在です。
特にメーカーは社員の給与が高すぎると、それをダシにして取引先からもっと製品を安く売れとか恐喝されるので各社低めに算出する傾向があります