本稿ではデンカ株式会社のIRを紐解いていきます。経営状態や組織図をざっと俯瞰し、採用面接や企業選びに役立てて頂ければ幸いです。
デンカの基礎IR情報
2019年度は売上高4131億円に対して営業利益328億円。経常利益率8%。
化学企業での全体平均がここ五年間は6-8%程度(財務省発行 年次別法人企業統計調査 より)なため平均的な水準といえます。
ここ3年は売上高も営業利益率も変化がないため伸び悩んでいる印象です。
回次 | 第159期 | 第160期 | 第161期 | |
決算年月 | 2018年3月 | 2019年3月 | 2020年3月 | |
売上高 | (百万円) | 395,629 | 413,128 | 380,803 |
経常利益 | (百万円) | 31,499 | 32,811 | 30,034 |
当期純利益 | (百万円) | 23,035 | 25,046 | 22,703 |
包括利益 | (百万円) | 26,081 | 19,543 | 16,164 |
自己資本比率 | (%) | 50.5 | 51 | 50 |
自己資本利益率 | (%) | 10 | 10.3 | 9.1 |
株価収益率 | (倍) | 13.6 | 11.1 | 8.7 |
営業活動による | (百万円) | 48,776 | 32,660 | 41,954 |
投資活動による | (百万円) | △29,298 | △26,176 | △36,303 |
財務活動による | (百万円) | △15,858 | △8,408 | 9,544 |
デンカの注目ポイント
先端電子製品と検査薬事業の進展が業績向上のカギ
基幹事業である(エラストマー・機能樹脂事業)や(インフラ・ソーシャルソリューション事業)での利益減を埋める形で先端電子製品と検査薬事業が利益を伸ばしている。
2017年にIcon genesis社を子会社化したのも、治療薬よりリスクが低い検査薬分野に利益向上の光を見出したからかな。
今後は基幹事業の損失を抑えつつ、いかに高付加価値が付けられるこれら独自製品を販売できるか鍵となると思う。
インフラ・ソーシャルソリューションの不安定さ
前年度から継続して営業利益ほぼ0%というラインを彷徨っている。スペシャリティ製品でないため利幅が小さいのは頷けるが、特に何かしらの特別損失がないにも関わらず利益が出ないのは問題である。
もはや市況の問題というよりは事業自体の存続可否が問われている印象を持った。この事業をどう手当てするかが今後の課題と考える。
全体として安定した経営力でB/S上は文句なし
安定して平均より高めの利益を出しており、自己資本比率50%と悪くない値。営業CFも大幅なプラスで毎年推移していて設備投資も恙なく行われている。流動資産が流動負債に近い値なのは少しだけ不安だが、今のところ資金が焦げ付く心配はなさそうである。
間違いなく10年後も生き残っている企業であり、化学系技術職の就職先候補の一つとしては問題のない優良企業。先行きの光明は今後の事業編成での立ち回り次第か。
デンカの就活情報
学歴ボーダーライン
技術系総合職は上位国立以上がメイン。東大や阪大などのトップ大学は少なめ。化学系院卒ならば十分に勝機はある。
就活選考フロー
ES提出 ⇒ 適性検査 ⇒ 面接(1回) ⇒ 最終面接 ⇒ 内々定
ESは随時受付だが採用枠は速い者勝ちなので、早ければ早いほど良い。リクルーター制度もあり、研究室先輩にデンカ社員がいると優遇される可能性あり。
デンカが手掛ける事業分野一覧
エラストマー・機能樹脂
売上高1,792億円 営業利益142億円(営利 8%)
主要な製品:スチレンモノマー、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、SBC樹脂、耐熱樹脂、N-フェニルマレイミド樹脂、透明樹脂、ポバール、クロロプレンゴム等
国内では子会社のDSポバール㈱がポバールの製造をおこない、関連会社の東洋スチレン㈱がポリスチレン樹脂を、デナック㈱がモノクロル酢酸等の製造・販売を担当。
海外拠点はシンガポール、米国に存在
インフラ・ソーシャルソリューション
売上高548億円 営業利益 ▲2億円
主要な製品:肥料、カーバイド、耐火物、セメント、特殊混和材、ポリエチレン製コルゲート管
子会社の日之出化学工業㈱が熔成燐肥の製造、デンカアヅミン㈱が腐植酸苦土肥料および腐植酸液肥の製造、西日本高圧瓦斯㈱他がアセチレンガス等の製造を担当
海外拠点は、中国、マレーシア、シンガポール、インドネシアに存在
電子・先端プロダクツ
売上高 671億円 営業利益 118億円 (営利 17.5%)
主要な製品:溶融シリカ、電子回路基板、ファインセラミックス、電子包装材料、接着剤、アセチレンブラック
国内では子会社のデナールシラン㈱がモノシランガス等の製造・販売を担当
海外拠点は、シンガポール、中国、ベトナムに存在
生活・環境プロダクツ
売上高 390億円 営業利益 9億円(営利 2.5%)
主要な製品:食品包装材料、住設資材、産業資材
国内では子会社のデンカポリマー㈱が合成樹脂加工製品等の製造・販売を担当
海外拠点は、シンガポール、ベトナム、中国に存在
ライフイノベーション
売上高 341億円 営業利益 63億円(営利18%)
主要な製品:ワクチン、関節機能改善剤、診断薬
国内では子会社のデンカ生研㈱がワクチン、検査試薬等の製造・販売を担当。
海外拠点は、ドイツ、シンガポールに存在
重要な沿革
年月日 | 出来事 |
1915年5月 | 設立 |
1916年9月 | 東京株式取引所、大阪株式取引所で当社株式定期売買を開始 |
1916年10月 | 大牟田工場(福岡県)にてカーバイド、石灰窒素の製造開始 |
1921年12月 | 青海工場(新潟県)にてカーバイドの製造開始 |
1962年5月 | 東京都町田市に中央研究所(現・デンカイノベーションセンター)完成 |
1962年6月 | 青海工場田海地区にクロロプレン工場完成(国産クロロプレンゴムの製造に成功) |
1999年12月 | デンカ生研㈱が日本証券業協会の店頭登録銘柄に指定(2004年12月にジャスダック証券取引所に株式を上場、2008年3月に上場廃止) |
2003年3月 | 大阪・名古屋・福岡各証券取引所の株式上場を廃止 |
2015年8月 | ドイツのノマッド社より同社が保有するバイオ医薬品研究開発企業アイコンジェネティクスGmbHの全株式のうち、51%を譲受(現・連結子会社) |
2015年10月 | 商号を「デンカ株式会社」に変更 |
2017年8月 | アイコンジェネティクスGmbHを完全子会社化 |
デンカの今後の経営方針
エラストマー・機能樹脂
スチレン系機能性樹脂分野:新規用途展開と高機能性樹脂の開発をシンガポール子会社と一体となり推進。
エラストマー分野:海外市場を見据えてスペシャリティー製品の開発および生産技術を強化。
特にクロロプレンゴムは世界トップシェア維持をするため米国デュポン社よりクロロプレン事業を譲り受けたデンカパフォーマンスエラストマー(DPE)社と研究開発、生産技術を共有。
新規用途展開のため新規高分子材料の開発にチャレンジし、新規機能性樹脂の市場開発や高機能エラストマーの材料開発を進めている。
開発成果である耐油性や動的環境下での耐屈曲疲労性に優れる新規高機能エラストマーEvolmer®は2018年度に販売開始。
インフラ・ソーシャルソリューション
セメント・特殊混和材分野:二酸化炭素排出量を削減する環境対応製品の技術開発を進展。診断ソリューションの研究開発も進めている。特殊混和材は主にアジア地域にて現地のニーズを吸い上げた製品開発を進めている。
無機製品分野:耐火物として実績のあるアルミナ繊維の自動車分野への展開に向けた研究開発を行っており、高機能、高性能製品開発と生産技術向上を進めている。
アグリプロダクツ分野:従来の肥料事業を糸口に農業ソリューションビジネスへの展開を模索。腐植酸を使用した肥料「アヅミン」の製造販売で蓄積した技術を基盤にバイオスティミュラト製品の開発を推進。
電子・先端プロダクツ
電子部材分野:多様なニーズに合致するソリューションを提供すべく各種高機能材料の研究開発を産学官と連携し推進。
接着剤分野:ハードロックSGA(高機能構造用接着剤)の積極的な海外展開を含めて新規市場開拓にも注力。
高機能フィルム分野:シートやフィルムの先端加工技術を活かし、電子部品・半導体搬送テープ、半導体ウェハやパッケージの保護・仮固定用粘着テープなどの新規製品をタイムリーに市場に供給すべく開発中。
先端機能材料分野:半導体封止材向け球状シリカ、放熱材料向け球状アルミナの高性能化を追求するとともに、液晶ディスプレイに用いる白色LED向けサイアロン蛍光体や放熱材料に加え化粧品用途への展開が進むBN粉の更なる特性向上、先進的な各種機能性粉体の開発
特殊導電材料分野:高純度で導電性に優れるアセチレンブラックのリチウムイオン二次電池市場での事業拡大を目指し、超高純度かつ高機能な製品の開発と事業化に取り組み。
生活・環境プロダクツ
当社グループの樹脂加工製品の新規用途展開、特性改善、および新製品開発を積極的に進め、更なる事業拡大を図っていく。
ライフイノベーション
ヘルスケア分野:ニーズ優先の研究開発に取り組み。予防・早期診断の取り組みに加えて、がん領域および遺伝子領域をキーワードとする新規事業展開のための研究開発を推進中。
2017年2月に米KEW社から導入したがん遺伝子変異検査技術について、国内大学医学部など研究施設とのコラボレーションを推進しつつ、薬事承認申請をめざした取り組みを、デンカ、KEW社、および両社のJVであるデンカ・キュー・ジェノミクスの連携により進めている。またデンカ生研では、ウイルス製剤「G47Δ(デルタ)」の製造設備が竣工し、実用化へ向けた大量生産法の開発を進展中。
がんウイルス療法という新たな医療技術の開拓を進める。
遺伝子領域においては、感染症分野を対象として、戦略的パートナーである台湾PlexBio社と協業し、同社の保有する遺伝子法をベースとした迅速かつ簡便に同時多項目の細菌同定を可能とする測定技術IntelliPlexTMシステムを活用。2022年度の上市を目標に敗血症の検査薬を開発。
Icon Genetics社が保有する、遺伝子組み換え技術を駆使した植物によるタンパク産生技術magnICON ®を抗体・ワクチン抗原等の高分子タンパク質産生に活用し、ノロウィルスワクチン等の新規ワクチンや体外診断用医薬品の開発中
平均給与・勤続年数
従業員数(人) | 平均年齢(歳) | 平均勤続年数(年) | 平均年間給与(円) |
3,250 | 40.6 | 17.1 | 7,068,520 |
デンカの従業員数は規模的には少な目~普通です。勤続年数が17年と上場企業の平均くらいな印象です。どこかにブラックな部署や人間関係が良くない部署がある可能性はあります。平均給与は業界ではやや低め~普通の水準。
平均給与額の算出方法がこれといって定められていないため、各社によって”どの職責までを平均に組み入れるのか”という基準が違います。
不当に低く見せたり、不当に高く見せたり自由自在です。
特にメーカーは社員の給与が高すぎると、それをダシにして取引先からもっと製品を安く売れとか恐喝されるので各社低めに算出する傾向があります