本稿ではJSR株式会社のIRを紐解いてをしていきたいと思います。経営状態や組織図をざっと俯瞰し、採用面接や企業選びに役立てて頂ければ幸いです。
JSRの基礎IR情報
回次 | 第73期 | 第74期 | 第75期 | |
決算年月 | 2018年3月 | 2019年3月 | 2020年3月 | |
売上収益 | 百万円 | 421,930 | 495,354 | 471,967 |
税引前当期利益 | 〃 | 46,206 | 46,408 | 32,629 |
当期利益 | 〃 | 33,230 | 31,116 | 22,604 |
総資産額 | 〃 | 647,699 | 691,435 | 677,713 |
親会社所有者帰属持分比率 | % | 60.8 | 58.1 | 58.5 |
株価収益率 | 倍 | 16 | 12.2 | 19.1 |
営業活動によるCF | 百万円 | 43,596 | 30,940 | 54,228 |
投資活動によるCF | 〃 | △20,423 | △66,266 | △35,592 |
財務活動によるCF | 〃 | 3,860 | △18,966 | △25,264 |
3年分の業績推移は売上高も経常利益も成長してはいません。
売上高6000億円規模の巨大企業なため成長は頭打ちになっています。2019年に売上が70000百万円も急増していますが、これは2018年4月に設立したテクノUMG株式会社による売上が加算されるようになったからです。その証拠に2019年には設立に掛かった費用として投資CFが大幅にマイナスになっています。つまり売上が上がったのは本業が爆発的に利益を生んだわけではありません。
肝心の会社の経営は税引前当期利益(ほぼ営業利益)で安定して7~11%程度を推移しています。営業CFもプラスなため会社の体質としては健全といえます。就職して働くには安定した良い企業だと思います。
コロナ禍でも黒字を維持
2020年3月から日本でも本格化したコロナ禍もあり最新の2020年4-6月の業績は売上で15%, 利益では80%落ち込んでいます。この経済が停滞した中でも辛うじて黒字を守っているのは賞賛に値すると思います。基盤として強い会社なので倒れる可能性はほぼないといえます。
事業の柱としてデジタルソリューション・ライフサイエンスといった成長事業を取り入れています。脅威的なのはこの二事業の売り上げが、もともとの本業であるエラストマと合成樹脂事業と同じくらいの規模であることです。
意識をして昔から構造改革してこなかった企業はライフサイエンスなど先端的な事業はまだ卵のような売り上げですが、JSRの場合は柱にまで育っているので他の化学メーカーと比べて優位性が高いと感じました。
株価的な視点での分析
PERが44倍と買いが集まっています。東証一部の化学系メーカーの平均が32倍なのですでに株価としてはすこし割高です。ROE5.8%と少し低めです。キャッシュは着実に増えているようなので、自社株買いを実施するか、純利益をなんとか上昇させてROEをあげてほしいものです。やはり少し割高にみえます。
配当は60円/年と配当利回りは2.3%です。化学企業としては普通か少し低めな水準です。株価面では3月のコロナショックでつけた1600円からじわじわと上げ続けて2500円になりました。移動平均線ものっぺりと平たくなってきたので天井が近い感覚があります。
財務面では流動比率2.5倍であって自己資本比率も57%と理想的な位置にいますので、キャッシュフロー面で経営難になる可能性は殆どないと思います。
JSRってこんな会社!
合成ゴムの国産化を目的とした「合成ゴム製造事業特別措置法」に基づき、1957年12月10日、政府及び民間会社の出資により設立されました。エラストマー・合成化学事業を主軸としつつ、最近ではライフサイエンス事業とデジタルソリューション事業が台頭しています。
- 自動車用途をはじめとして様々な用途を持つゴム、印刷インキや塗装用途向けのエマルジョンなど、ゴムの機能付与技術と分散制御技術に定評があります。
- 難燃ABS樹脂、耐熱ABS樹脂などエンプラの開発技術があります
- 半導体用材料、ディスプレイ材料向けの耐熱透明樹脂や機能性フィルム開発等の研究開発に力を入れている
- バイオ医薬品分野および先端診断分野を中心に事業展開を進めるとともに、医薬品開発プロセスの最良化を目指しています。
汎用プラスチックの弱点である強度や耐熱性などの問題を克服した高機能プラスチックのこと。一般的には100℃以上の耐熱性を持ってることが定義
事業ごとの研究開発状況
エラストマー事業
自動車・タイヤ業界で利用されるゴムを製造している。世界的に需要が急伸しているリチウムイオン二次電池向けの電池用バインダーに参入したい考え。より高付加価値の製品比率を上昇させることが今後の目標。
合成化学事業
テクノUMGとのシナジーを大切にしていく。自動車向け軋み音対策材やめっき用材料といった特色のある高機能製品を海外市場で拡販を目指していく
デジタルソリューション事業
半導体事業では今後数年間の主流となる7-10 nmプロセス向けの先端リソグラフィ材料に注力していく。また次世代である5 nmプロセス用にも対応製品を出していく。付随して実装材料・洗浄剤・CMP材料といった付属品に関しても売り込んでいく。
ディスプレイ材料では大型液晶パネル向けに競争力のある配向膜、絶縁膜を中心に構造変化に対応していく。こういった既存の液晶パネル部材だけでなく、有機EL向けの新製品の開発も促進している。未来を見据えて経営が出来ていると感じるいい動きです。
ライフサイエンス事業
バイオ医薬品の開発・製造受託事業をメインに据える。また医薬品開発支援事業や診断薬材料の提供も視野にいれて事業を拡大する見込み。2019年1月には米国にJSR Life Sciences, LLCを設置したため、そこから北米市場の統括を行っていく。
次世代向けの研究
JSRでは 1)精密医療、2)幹細胞生物学と細胞医療、3)微生物叢(マイクロバイオーム)、4)先端医療機器の4領域において機能素材の側面から医療をバックアップする技術の開発にいそしんでいます。ライフサイエンス系の専攻をしている学生は好んで採用されることが見込まれます。
JSRという社名の由来
前身である日本合成ゴム株式会社から来ています。英語にするとJapan Synthetic Rubber Co., Ltd.なので、今風の社名にするために頭文字をとってJSR株式会社になりました。
社名変更は創立40周年となった1997年のことです。多くの企業が2010年代に改名を行うなかで1990年代から社名を変更したのも先見の明がありそう。
実際、事業も将来を見越して次世代製品のシード研究を行っているため、上手く経営を行っているようにみえます。
JSRの就活関連情報
注目した最近のニュース
JSR Life Sciencesが臨床用cGMPバイオ医薬品原薬製造能力を強化【2020年10月】
JSRのグループ企業であるJSR Life Sciencesは、子会社のKBI Biopharmaと同じく子会社のSelexisの欧州における共同事業強化のため、最先端の施設を新たに拡張しました。
Selexisはジュネーブの工業地帯であるZIPLO (Industrial Zone Plan―les―Ouates)の敷地内に合わせて8,700平方メートルの施設を保有することになります。
KBIも共同で施設を利用するため、KBIは臨床用cGMPバイオ医薬品原薬製造能力を、Selexisは哺乳動物細胞株の開発技術とサービスの提供を拡充できます。この拡張によって両社で計250人以上の雇用創出を見込んでいます。
統計数理研究所との共同開発を表明【2020年10月】
共同研究部門「JSR-ISMスマートケミストリーラボ」を同月から設置することで合意しました。要はマテリアルインフォマティクスというデータ駆動型材料研究を促進する基盤技術を共同で開発し、機能化学品の分野を対象に新規材料開発の飛躍的な効率化を目指しましょうという取り組みです。
ただ素材探索と一括りにしても交互作用が単純で簡単にモデル化して予想できるような素材から複雑に各要素が作用しまくって予想ができない素材まで色々あります。例えば樹脂系の機能材料はモデルを組んで予想することが簡単ですが、トヨタの全個体電池の性能アップのような課題では手を動かして検証するしかないです。
ノーベル賞ってたまたまで思いもよらない発見をするじゃないですか。田中耕一さんのソフトレーザー脱離イオン化法もそうだし、吉野彰さんのリチウムイオン電池の開発とか(実はソニーがリチウムイオン一番乗りだった説はあります)。
やはりマテリアルインフォマティクスは日常業務の改善には役立つけれど、劇的な発見はすることが出来ないのです。結局は手を動かすしかなかったりするとつくづく思います笑
上級職を対象にした特別転進支援施策を実施【2020年9月】
50歳以上58歳未満かつ勤続年数15年以上の上級職の従業員を対象に特別転進支援施策を実施することを発表しました。要は退職金を特別加算するから希望退職してくれよ、ということです。
社員のキャリア開発の選択肢を広げ、自身の専門性や強みを同グループ外で発揮することを希望する社員への支援として行うと書いていますが、実際には社外に放り出した後は手厚い支援は望めないでしょう。
ただJSRの50歳管理職なんてお金に余裕がある人が多いので、アーリーリタイアするならちょうどいい機会です。50人ぐらいすぐ集まると思います。退職金を特別加算してくれるなんて美味しい話ですし。
参考として下記に早期退職の募集要項を掲載しておきます。
■募集概要
◇対象=2020年11月30日現在、年齢50歳以上58歳未満かつ勤続年数15年以上の上級職◇人数=50人程度◇期間=10月1日~10月15日◇退職日=2020年11月30日◇優遇措置=退職金に特別加算を実施、再就職支援会社を通じた再就職支援サービスを提供
学歴ボーダーライン
技術系総合職は地方国立大学院生以上なら狙える。しかし旧帝大以上のメンツが内定者の半数以上を占めているので気張る必要があります。内定した後も懇親会では少し気がひけるかもしれません。
しかし働き始めると学歴なんて至極どうでもいい要素なので気になりません。内定とれたらそれで勝ちなので狙っている人は気にせずに受けに行きましょう。
地方国立大からはよほどでない限り一人しか取りません。基本的には採用ターゲットはあくまで旧帝大以上であると心得ましょう。
選考フロー
履歴書・ES提出 ⇒ ウェブ適性試験 ⇒ 一次面接 ⇒ 最終面接 ⇒ 内々定
平均年齢・勤続年数
決算年月日 | 2016年3月31日 | 2017年3月31日 | 2018年3月31日 | 2019年3月31日 | 2020年3月31日 |
平均年齢(単独) | 38.4歳 | 38.6歳 | 38.7歳 | 38.8歳 | 38.9歳 |
平均勤続年数(単独) | 13年 | 12.8年 | 12.6年 | 12.8年 | 13.1年 |
平均年収(単独) | 746万円 | 742万円 | 743万円 | 755万円 | 754万円 |
平均年齢は38歳で平均勤続年数13年と短めです。もしかしたら新卒入社組が激務などでしごかれて離脱しているのかも。はっきり言ってブラックやホワイトといった労働環境は会社単位ではなく部署によって天と地ほど差があります。
三年離職率もさほど低いわけではないため、配属先でブラックを掴まされた人が辞めているのかもしれません。ちなみに年収は東証一部上場の化学メーカーの平均より少し高めです。