本稿ではカネカ株式会社の有価証券報告書を紐解いて会社分析をしていきたいと思います。経営状態や組織図をざっと俯瞰し、自分が本当に目指したい会社なのかの検討に役立てて頂ければ幸いです。
筆者から見たカネカの概況
回次 | 第93期 | 第94期 | 第95期 | |
決算年月 | 2017年3月 | 2018年3月 | 2019年3月 | |
売上高 | (百万円) | 548,222 | 596,142 | 621,043 |
経常利益 | (百万円) | 27,426 | 32,775 | 31,268 |
親会社株主に帰属する | (百万円) | 20,484 | 21,571 | 22,238 |
自己資本比率 | (%) | 51.5 | 51 | 51.1 |
自己資本利益率 | (%) | 6.9 | 6.8 | 6.7 |
株価収益率 | (倍) | 13.42 | 16.06 | 12.22 |
営業活動による | (百万円) | 48,119 | 49,750 | 41,113 |
投資活動による | (百万円) | △36,369 | △38,796 | △47,229 |
財務活動による | (百万円) | △13,612 | △5,390 | △954 |
フリーCF | (百万円) | 11750 | 10954 | △6116 |
2018年は売上高6210億円に対して経常利益312億円。経常利益率5.0%。化学企業での全体平均がここ五年間は6-8%程度(財務省発行 年次別法人企業統計調査 より)なため、過去5年間ベースで考えても経常利益は低めである。
自己資本利益率ROEも6.7%台と業績としては少し物足りないかなと思います。流動比率は1.7倍くらいで、自己資本比率も50%と財務上は問題ないです。
フリーCFをみると、2019年度の投資活動は10000(百万円)ほど増えているためマイナスになっています。この投資は「有形固定資産の取得」でした。つまり単純に2019年に大口の設備投資を行っただけなので問題なしです。
売上高に占める各事業の割合

カネカ株式会社は総合化学企業として事業を行っており、化学企業としては売り上げ規模で第21位のポジションにいます。
上記のような素材・QEL・ヘルスケア・栄養事業の4種類に分かれています。利益をけん引しているのは高い売り上げ割合を占める素材分野なのですが、こうも減益してしまうと形無しですね。
直近の決算からみる経営状態
回次 | 2018年3Q | 2019年3Q | 2018年通期 | |
売上高 | (百万円) | 467,615 | 452,467 | 621,043 |
経常利益 | (百万円) | 22,937 | 15,139 | 31,268 |
当期純利益 | (百万円) | 14,681 | 9,232 | 22,238 |
米中貿易摩擦を引き金とするアジア・欧州での需要の鈍化、自動車産業やエレクトロニクス産業の低迷の影響によって、カネカが力を入れている海外市場の景気減速が業績に直撃した形です。
セクター別の前年度売上との比較
売上高(億円) | 売上高減少率(%) | 営業利益(億円) | 営業利益減少率(%) | |
Material Solutions Unit | 1807 | 5.5 | 105 | 25.2 |
Quality of Life Solutions Unit | 1186 | 0.8 | 10 | 3.7 |
Health Care Solutions Unit | 332 | 5.2 | 18 | 17.7 |
Nutrition Solutions Unit | 1190 | 1.5 | 40 | 2.5 |
Material Solutions Unit, Health Care Solutions Unitの二分野で20ポイント程度も営業利益率が減少しています。コロナウィルスや米中貿易摩擦による市況の落ち込みも影響していますが、有報を読む限り売り上げ成果が3Qで反映されなかっただけに思えます。
Material Solutions Unit
Vinyls and Chlor-Alkaliについては、中国経済減速の影響でか性ソーダ市況が低迷。また塩化ビニル樹脂及び塩ビ系特殊樹脂も国内の市況は低迷しましたが、インドなど海外の需要は堅調で販売は増加している。第4四半期は一段の回復を見込んでいる。
Performance Polymersのモディファイヤーについては、米中貿易摩擦による国内外の需要減及び貿易量の減少の影響で売り上げ減少に寄与した。
Health Care Solutions Unit
Medical Devicesについては概ね好調。医療用カテーテルはベトナム工場で増産を視野に入れるほど好調。また11月に国内で販売をスタートした新製品の塞栓コイルも順調に推移しており、今後は米国での販売が予定されている
足を引っ張ったのはPharma分野で大型低分子医薬品の出荷が第4四半期に変更になったこと。本当なら3Qに計上されるはずだった売り上げがなくなったため、大きく減益になった模様。
カネカという社名の由来
創業地・鐘ケ淵(かねがふち)(東京都北千住)の地名に由来した鐘淵化学工業がもともとの由来。読みにくくて書きにくいために略称の「カネカ」を社名とした。
キャッチコピーは”カガクで・ネガイを・カナエル会社”である。頭文字をカ・ネ・カに揃えてCMなども放映している。面接のアイスブレイクには使えるネタなので動画をチェックしてもよいかもしれません。
カガクでネガイをかなえる会社、カネカのCMサイト。…
カネカの注目ニュース
育休明けでの転勤命令で大炎上
Twitter上で「夫が育休明けに転勤を命じられて、退職せざるを得なかった」というポロっとした呟きが世間を駆け巡りました。投稿主は会社こそ明記していなかったものの、”化学で願いをかなえる会社”という投稿からカネカと判明し、炎上しました。
カネカはブラック企業という評判が立ってブランドイメージが棄損されてしまいました。なぜかカネカが広報で強硬な姿勢を貫いたため、更に大炎上したのは記憶に新しい事実です。
「高効率結晶系シースルー太陽電池」が国立競技場の天井に採用
シースルー太陽電池は一般建築物の天窓や窓などの開口部向けに開発。国立競技場の天井にも採用される。
透明のガラス窓のような意匠を備えつつ太陽光で発電出来る。要は発電できる窓ガラスである。カネカとしてはゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)に貢献する創エネルギー技術として公共施設などに積極的に提案している段階の模様。
ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)とは
快適な室内環境にしつつ、建物全体で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロにすることを目指した建物。
つまり”省エネな空調とか照明で電気使用量を抑えつつ、太陽発電電池のようなモジュールで発電することで正味の電力使用量をゼロにしようぜ!”という考え方。
環境省が推奨してゴリ押ししており、読み方は「ゼブ」である。
1968年にカネミ油症という公害を引き起こした
カネミ油症は物質ポリ塩化ビフェニール(PCB)が食用油が流れる管に利用されており、それが溶け出して油に混入したことで起きた病気。PCBはダイオキシン類です。
色素沈着や塩素挫瘡など肌の異常、頭痛、手足のしびれ、肝機能障害などの病状を引き起こした。とくに胎児に対する毒性が強く、全身真っ黒の赤ん坊が生まれてきたニュースは全世界を震撼させた。
製造者責任を追及するPL法がまだ存在しなかった時代のため、汚染された油を下流の最終製品製造のメーカに出荷した張本人であるカネカは責任を問われていない。
汚染された油により病気になった人たちの救済にも加わっていないため、賠償金で財務が圧迫される心配はない
カネカの事業分野と生産拠点
セグメントの名称 | 売上高(億円) | 営業利益(億円) | 従業員数(名) | 主な生産拠点 |
Material Solutions Unit | 2559 | 170 | 628 | 高砂工業所 (兵庫県高砂市) |
Quality of Life Solutions Unit | 1567 | 73 | 790 | 大阪工場 (大阪府摂津市) |
Health Care Solutions Unit | 474 | 16 | 272 | 滋賀工場 (滋賀県大津市) |
Nutrition Solutions Unit | 1590 | 59 | 349 | 鹿島工場 (茨城県神栖市) |
全社(共通) | ― | ― | 1,526 | |
合計 | 6190 | 312 | 3,565 |
カネカは関西の企業なので基本的には兵庫や大阪、滋賀といった工場、もしくは研究所での勤務となります。関西での勤務が嫌な人はやめておきましょう。
主要事業の最新状況
Material Solutions Unit
生活と環境の進化に貢献できる機能性材料や、競争力を強化するプロセス開発に取り組んでいる。
2019年度では発酵技術とポリマー技術の融合で生まれた海洋分解性を特徴とする生分解性ポリマーの用途開発を大手顧客と共同で進めた。また航空機・宇宙分野向けの高機能複合材の開発も注力している。
Quality of Life Solutions Unit
素材の力で生活価値の先端を創る製品の研究開発に取り組んでいる。例えば 衝撃吸収や断熱性にすぐれる発泡樹脂、独特の風合いと難燃性を両立する繊維、情報通信を支える高機能素材。
2019年度ではネット・ゼロ・エネルギーハウス(ZEH)やネット・ゼロ・エネルギービル(ZEB)に貢献する断熱材や太陽電池、エネルギーマネージメントシステムの開発を進めた。次世代通信端末向けの高機能ポリイミド関連商品なども開発した。
Health Care Solutions Unit
発酵、精密合成、ポリマー技術を健康分野に適用して研究開発に取り組み中。
2019年度では新規バイオ医薬品の開発や連続フロー反応による医薬品原料生産の開発に注力。
Nutrition Solutions Unit
食の多様化に貢献する新素材や機能性食品などの開発、食料生産技術開発に取り組んでいる。
2019年度では欧州企業との提携による技術を活かし、高品質でおいしさを追求した乳製品の開発に取り組んだ。新たに機能性乳酸菌素材の開発に注力している。
今後の経営方針
世界を健康にする「健康経営」を目指す。世界が直面している3つのクライシス(地球環境・エネルギー危機、食糧危機、健康危機)へ革新的素材の技術開発を通じて勝機を見出す。
2019年度の売上高目標を6,500億円、営業利益目標を400億円と設定
成長のドライバーを「R&B」(Research & Business)、「グローバル化」、「人材育成」とし、市場・顧客視点に立ったビジネスアプローチの強化、研究・製造・営業を束ねたバリューチェーン全体の生産性の向上、現地視点に立脚したグローバル化を加速していく。
カネカの就活情報
学歴ボーダーライン
国公立大学院生 or 有名私立(関関同立)の院生なら十分に可能性はある。技術系は80%関西圏大学で占められているため、実績のない関東の大学は内定が少し厳しくなるかもしれない。総評として関西の上位国立以上(大阪市大や以上かな)だとなにも心配せず全力で戦える。
就活選考フロー
ES提出 ⇒ 適正検査受験 ⇒ 社員面談⇒ 最終面接 ⇒ 内々定
(筆者の友人に内定者いなかったため詳細は不明)
重要な沿革
接着剤で有名なセメダインを子会社化していることも面白い点ですね。
ちなみに社名の由来は結合材であるセメントと力の単位であるダインを組み合わせたところから。セメダインCは日本初の合成接着剤として重要科学技術史資料に選ばれています。
1949年9月 | 会社設立 |
1950年7月 | 塩化ビニル樹脂の製造開始 |
1953年2月 | ショートニングの製造開始 |
1957年7月 | アクリル系合成繊維「カネカロン」の製造開始 |
1974年12月 | 医薬品バルクの製造開始 |
1999年10月 | 電力用太陽電池の製造開始 |
2016年1月 | セメダイン㈱を公開買付けによる株式取得により連結子会社化 |
平均勤続年数
2015年 | 2016年 | 2017年 | 2018年 | 2019年 | |
従業員数 (単独) | 3,344人 | 3,400人 | 3,485人 | 3,525人 | 3,565人 |
平均年齢(単独) | 40歳 | 40歳 | 40歳 | 40歳 | 41歳 |
平均勤続年数(単独) | 17年 | 17年 | 17年 | 17年 | 17年 |
平均勤続年数が5年間で殆ど変化していません。従業員数も変化していないことから団塊世代の退職数と流入する新卒数が同数になっているとしたものと考えられます。
また売上規模にしては従業員数が少なめです。勤続年数が17.2年と業界では少し長めの水準です。平均給与も業界では普通といったところ。大手総合化学メーカーとしては少し安めの給与水準でしょう。