本稿では花王株式会社のIRを紐解いて会社分析をしていきたいと思います。経営状態や組織図をざっと俯瞰し、自分が本当に目指したい会社なのかの検討に役立てて頂ければ幸いです。
花王の基礎IR情報
回次 | IFRS | 第112期 | 第113期 | 第114期 |
決算年月 | 2017年12月 | 2018年12月 | 2019年12月 | |
売上高 | 百万円 | 1,489,421 | 1,508,007 | 1,502,241 |
税引前利益 | 百万円 | 204,290 | 207,251 | 210,645 |
当期利益 | 百万円 | 147,010 | 153,698 | 148,213 |
営業活動によるキャッシュ・フロー | 百万円 | 185,845 | 195,610 | 244,523 |
投資活動によるキャッシュ・フロー | 百万円 | -96,146 | -157,895 | -94,266 |
財務活動によるキャッシュ・フロー | 百万円 | -53,244 | -108,579 | -126,166 |
フリーCF | 百万円 | 89,699 | 37,715 | 150,257 |
2018年は売上高1兆5080億円に対して経常利益2070億円。経常利益率13.8%となっています。
化学企業での全体平均がここ五年間は6-8%程度(財務省発行 年次別法人企業統計調査 より)なため、経常利益はとても高いです。自己資本利益率ROEも17%台と素晴らしい経営が出来ています。
フリーCFは5年連続プラスで流動比率も1.7倍あります。自己資本比率も50%台なので健全な財務ですね。
投資家視点での分析
化学企業の中では株価のボラも平均的で、下がりにくいイメージがあります。やはり経営が順調で底堅いからでしょう。信越化学と同じですね。
日経平均に採用されているのでGPIFや日銀の買い上げの効果もあって値を上げています。コロナショックにより全面安でしたが、V字回復をして高値をつけていますね。
財務活動によるキャッシュフローは赤字
財務活動によるキャッシュフローが4年連続でマイナスですが、これらの殆どは配当金の支払いによるものです。また2018年には配当金の支払いに加えて自己株式の取得を行っているため、大幅なマイナスとなっています。
直近の2019年でも自己株式の取得を行っているため、今年も財務活動のキャッシュフローが大幅にマイナスになっております。花王の中期経営計画K20に標榜されている”ステークホルダへの積極的な還元”が為されていますね。株価対策もきっちり行っている優良企業です。
自己株式取得する目的は?
花王のような大企業では主に株主還元と敵対的買収対策のためです。
株主還元:単純に株式を会社が買うことで株価が上昇するため株主が喜ぶ
買収対策:浮動株(市場で取引されている株)の割合が小さくなるため他社が買収しにくくなる
☆非上場の小規模企業だと事業継承時の相続税対策で行われることが多いです
花王ってこんな会社!
花王株式会社は総合化学企業として事業を行っており、化学企業としては売り上げ規模で第6位のポジションにいます。
売上の8割はB to C事業で花王社内ではコンシューマープロダクツ事業と呼ばれています。ケミカル事業だけがB to B向けのビジネスとなっています。
花王といえば我々がお店で購入するワイドハイターとか、リセッシュとかが頭に思い浮かびます。競合はP&Gやライオンなどでしょうか。
絶えない研究開発が売上を生む
基本的には小売店に卸して一般市民に買って貰う形になるためフロー収益がメインになります。常に新製品に改良を加えて市場で価値を発揮していかないと、競合に負けて収入が減ることになるでしょう。
ただ花王というブランドイメージはすでに盤石で、お客さんを囲い込んでいるので売り上げが激減することはないでしょう。またケミカル事業は企業相手のストックビジネスなので、その点もリスクを分散できていると言えます。
フロービジネス:
不特定多数のお客さんが需要に応じて買っていくビジネスです。小売業が代表的で、いつ誰が購入してくれるか分かりません。
ストックビジネス:
予め購入契約を結ぶため確実に未来に収益が入るビジネスです。英会話教室とかフィットネスとか代表的で、契約を結ぶのでいつ誰が製品を買ってくれるかが予想しやすいです
花王という社名の由来
1890年に発売した高級化粧石鹸「花王石鹸」が由来です。
当時、洗濯用石鹸が「洗い石鹸」、化粧石鹸が「顔洗い」と呼ばれていた。そのため新製品の洗濯用石鹸を「カオ(顔)石鹸」と名づけることとし、「香王」「華王」「花王」などの候補中から「花王」という文字が選ばれ名付けられました。
もともとの石鹸の呼び方に無理やり花王という文字を当てはめたのが企業名になったという、なんとも適当…面白い名前の付け方ですね。
注目した花王のニュース
ビオレUVがテニス協会の公式スポンサーとなった
テニス協会のオフィシャル日焼け止めとして採用される運びとなった。もしテニス協会と大口で契約を結ぶようなことがあれば、今後の日焼け止めの売れ行きが爆増する可能性がある。
メディア露出した時点で、製品のCMが出来ているため売上は上がると予想しています。
ファインファイバー技術を花王の「EST」とカネボウ化粧品の「SENSAI」に導入
構造としてはミスト状にした化粧水に細かなファイバーを混合して皮膚に吹きかけることで、薄い薄膜が形成されて化粧水が保持されるという新製品です。
12月に発売が開始されて以降、計画通りに売上がのびています。注目すべきは、購入者の8割が新規顧客であるところ。本製品の効能を知った母数が多いほど魅力が口コミで広がっていくために新規顧客は大切です。
花王の澤田社長の考え方が面白い
ニュースじゃないけど、プレジデントウーマンに面白い記事があったので紹介します。
社長自ら人事採用部門を担当して「最低限の基準を満たしていれば誰を採用してもいいのではないか。例えばくじ引きとか」と発言していたようです。
筆者もこの考え方は素晴らしいと思います。コミュニケーションや研究能力、やる気などの最低限の項目さえ満たしていれば、あとはくじ引きで決めたところで会社の業績は変化しないと思う。
実際、私の回りでも「なんでこの人が入社できたのだろう?」と首を傾げてしまうような人間も多く居る。正直な話をすると、収益基盤さえ盤石であれば会社は回りそうです。
ちなみに澤田社長は理系畑の生え抜き社長です。文系ばかり社長になる風潮がある日本において理系の社長は我々理系出身者の希望の光です。
【白河】花王は早い時期から、女性活躍や多様性に熱心に取り組んでいらっしゃいますね。【澤田】私が社長に就任したのは2012…
大阪大学大学院工学研究科プロセス工学専攻修士課程修了。
1981年、花王石鹸株式会社入社
2003年7月 サニタリー研究所長
2006年6月 研究開発部門副統括
2007年4月 ヒューマンヘルスケア研究センター長
2008年6月 取締役執行役員、2012年6月 代表取締役社長執行役員(現任
花王の事業分野と最新動向
セグメントの名称 | 売上高 (億円) | 営業利益(億円) | 単体従業員数(人) | 主な商品 |
化粧品事業 | 2,796 | 277 | 1,021 | ソフィーナ |
スキンケア・ヘアケア事業 | 3,414 | 488 | 1,305 | ビオレ、エッセンシャル、ケープ |
ヒューマンヘルスケア事業 | 2,677 | 279 | 2,024 | ピュオーラ、ヘルシア、メリーズパンツ |
ファブリック&ホームケア事業 | 3,441 | 712 | 1,355 | リセッシュ、キュキュット、ワイドハイター |
コンシューマープロダクツ事業 | 12,329 | 1756 | 5,705 | ― |
ケミカル事業 | 3,103 | 306 | 1,296 | ― |
全社(共通) | -377 | ― | 654 | ― |
合 計 | 15,080 | 2062 | 7,655 | ― |
消費者向けのコシューマプロダクツ事業はいずれもスペシャリティ製品といえます。弱い箇所がなくて満遍なく利益が伸ばせているのが素晴らしいです。
花王といえば洗剤など日用品のイメージがとても強いですが、ケミカル事業では脂肪酸エステルや高給アルコール、界面活性剤などの工業用途製品をラインナップしています。これらは他社での塗装溶剤だったり、食品添加物だったり様々な製品へ利用される中間製品です。
また地味にプリントインク事業やハードディスク用研磨剤なども手掛けているのも面白いポイントですね。
化粧品事業
カウンセリング化粧品:デパートチャネルで展開している「SUQQU」や「RMK」で低刺激で和漢植物エキスを配合した「フリープラス」、乾燥性敏感肌ケア「キュレル」の売り上げが好調。
2018年9月に改良した土台美容液「ソフィーナiP」が順調に売り上げを伸ばし、とくにアジアでは中国を中心に売上が伸長。
スキンケア・ヘアケア事業
スキンケア製品:「ビオレ」が日本、アジアでは堅調だが米州では競合品の激しい攻勢を受けている。ハンド&ボディローションの「ジャーゲンズ」は米州で順調に推移。
ヘアケア製品:白髪ケア「リライズ」ブランドを立ち上げ、好調に推移。
2018年1月にスーパープレミアム価格帯のヘアサロン向けブランド「Oribe(オリベ)」を所有するOribe Hair Care, LLC(米国)が連結子会社になり好調に推移。
ヒューマンヘルスケア事業
ベビー用紙おむつ「メリーズ」は2019年1月から中国で施行の新電子商取引法の影響等で、中国での転売を目的とした需要が大きく減少し、売り上げは前期を下回った。インドネシアでは現地生産品が好調に推移し、ロシアやその周辺国でもシェアを伸長。
生理用品「ロリエ」は、日本、中国等で高付加価値品が好調に推移。
大人用紙おむつは下着らしさにこだわった超薄型紙パンツの「リリーフ まるで下着」が順調に推移。
パーソナルヘルス製品:蒸気の温熱シート「めぐりズム」は改良品の発売により売り上げが伸長。
ファブリック&ホームケア事業
ファブリックケア製品:衣料用洗剤「アタック」は、「洗たく水を抗菌水に変える」という価値伝達の強化を図った。柔軟仕上げ剤では「フレア フレグランス」を改良しシェアを伸長
ホームケア製品:泡スプレータイプの食器用洗剤「キュキュット」を改良して順調に推移。
海外での業務品事業を強化する目的で、2018年8月にWashing Systems, LLC(米国)の買収して連結子会社化。
ケミカル事業
油脂製品:海外での需要は堅調。
機能材料製品:インフラ関連分野での拡販の貢献により売り上げを伸長。
スペシャルティケミカルズ製品:トナー・トナーバインダーは顧客の需要減。ハードディスク関連製品は順調に推移。
花王の就活情報
学歴ボーダーライン
ほとんどが旧帝大以上の学生で占められるイメージ。理系院卒なら可能性はある企業かと思います。ちなみに花王は女性採用に相当力を入れているので、理系の女性なら内定確率はかなり上がるかと思います。
化学系メーカーはどこでもそうですが文系は採用数が少なく、全体の2割もいないです。
選考フロー詳細
説明会⇒ES提出+適性検査⇒懇談会・面接⇒最終面接⇒内定
花王のES選考は、ガクチカ・努力したこと・学業面で頑張ったことなどを300字で15か所くらい書かされます。ESで聞かれそうな項目を全て網羅していたことから、筆者は花王のESにある項目それぞれに100字違いの文章をテンプレートとして用意しておきました。
花王のESは就活準備でESの項目を考えるために利用するのに最適です。
重要な会社沿革
1887年 6月 | 洋小間物商長瀬富郎商店として発足。 |
1946年10月 | 花王石鹸株式会社長瀬商会を株式会社花王と改称。 |
1949年 5月 | 日本有機株式会社を花王石鹸株式会社と改称。東京証券取引所の市場第一部に上場。 |
12月 | 大日本油脂株式会社と株式会社花王が合併し花王油脂株式会社と改称。 |
1954年 8月 | 花王石鹸株式会社が花王油脂株式会社を吸収合併。 |
1960年 3月 | 大阪証券取引所の市場第一部に上場(2003年3月上場廃止)。 |
1985年10月 | 「花王石鹸株式会社」から「花王株式会社」へ商号変更。 |
2016年 1月 | 花王カスタマーマーケティング㈱、カネボウ化粧品販売㈱等の株式を承継した花王グループカスタマーマーケティング㈱が営業開始。 |
9月 | 小田原事業場内に「ビューティリサーチ&イノベーションセンター」を開所。 |
2018年 1月 | 花王グループカスタマーマーケティング㈱が花王カスタマーマーケティング㈱、カネボウ化粧品販売㈱を吸収合併。 |
平均勤続年数は減少傾向
西暦 | 2014年 | 2015年 | 2016年 | 2017年 | 2018年 |
従業員数 (単独) | 6,664人 | 6,970人 | 7,195人 | 7,332人 | 7,655人 |
平均年齢(単独) | 42歳 | 41.7歳 | 41.4歳 | 41.4歳 | 40.8歳 |
平均勤続年数(単独) | 19.1年 | 18.5年 | 18.1年 | 18年 | 17.9年 |
平均勤続年数が5年間で19.1⇒17.9と約1.2年も減少しています。平均年齢も1.2歳減っていることから団塊世代が退職したものと考えられます。従業員数はここ二年ほどで1000人近く伸びていることから、新卒が沢山流入して平均年齢と勤続年数を押し下げている効果が顕著にあらわれていると考えます。
花王の平均年収・勤続年数
従業員数(人) | 平均年齢(才) | 平均勤続年数(年) | 平均年間給与(千円) |
7,655 | 40.8 | 17.9 | 8,219 |
花王は売上にしては従業員数が少なめです。勤続年数が17.6年と業界では少し長めの水準です。平均給与も業界では中の上といったところ。大手総合化学メーカーとしても少し高めの給与水準でしょう。
ただ平均年間給与はクセモノですので参考程度に見てください。平均給与額の算出方法がこれといって定められていないため、各社によって”どの職種を平均に組み入れるのか”という基準が違います。つまり不当に低く見せたり、不当に高く見せたり自由自在です。
特にメーカーは社員の給与が高すぎると、それをダシにして取引先からもっと製品を安く売れとか恐喝されるので各社低めに算出する傾向があります。