知らねば損! クラレをIRで企業研究

本稿では株式会社クラレのIRを紐解いていきます。経営状態や組織図をざっと俯瞰し、採用面接や企業選びに役立てて頂ければ幸いです。

クラレの基礎IR情報

回次第137期第138期第139期
決算年月2017年12月2018年12月2019年12月
売上高(百万円)518,442602,996575,807
経常利益(百万円)74,23561,16748,271
当期純利益(百万円)54,45933,560△1,956
包括利益(百万円)60,82216,285△8,137
自己資本比率(%)71.758.653
自己資本利益率(%)10.26△0.4
株価収益率(倍)13.7316.14
営業活動によるCF(百万円)84,60675,17195,577
投資活動によるCF(百万円)△79,896△186,982△89,369
財務活動によるCF(百万円)△17,176114,088△1,517
フリーCF(百万円)4710-1118116208

株式会社クラレについて、2019年度は売上高6030億円に対して経常利益612億円。経常利益率11.5%です。

化学企業での全体平均がここ五年間は6-8%程度(財務省発行 年次別法人企業統計調査 より)なため、過去5年間ベースで10%程度と経常利益は高めといえます。

2017年度には好景気に乗って売上と経常利益も5年で最高になっており、株価も最高値を付けました。現在はコロナウィルスによる暴落と赤字報道によって1000円あたりをうろついている状態です。

ROE1桁台なのが惜しい

過去五年間も安定して経常利益10%ちょうどくらいです。ただ自己資本利益率ROEが平均で7%くらいと少し見栄えが悪い。投資家好みにするなら10%は超えたいところです。

また2018年度はROEが 10.2 ⇒ 6へと大きく低下しています。自社株買いや増配などが見られないことから、単に当期純利益が下がったことが原因です。

純利益の内訳で2017年度と異なる点

  • 単純な純利益の低下(△13000)
  • 2017年度は有価証券が売却された(△3000)
自己資本利益率(ROE)の見方

ROE = 当期純利益/自己資本×100 (%)

10%以上あれば良い企業と一般的には言われています

ROEは利益を上げることで増加します。それ以外には、配当を出すか自社株買いというステークホルダーへの還元で増加します

大塚家具みたく資産を切り崩して配当を出しまくればROEは見かけ上は上昇してしまいます。財務の中身をしっかり見る必要がありますね。

投資活動によるCFが△1800億円と高額

この1800億円は2018年6月に行った3つの投資活動(下表)での支出合計額です。とくに Calgon Carbon Corporationの完全子会社化には株式取得額として1250億円を支出しています。

時期出資方法会社名事業分野
2018年3月100% 株式取得Calgon Carbon Corporation活性炭の製造、販売
2018年6月住友商事と合弁Kuraray Advanced Chemicals (Thailand) Co., Ltd.イソブチレン誘導品の製造、販売
2018年6月単独Kuraray GC Advanced Materials Co., Ltd.ブタジエン誘導品の製造、販売

Calgon Carbon Corporationとは

(売上高 578億円, 営業利益 27億5000万円, 純資産 428億円)の活性炭メーカーで世界最大手のアメリカ企業がCalgon Carbon Corporationです。

今回は環境・エネルギー分野での事業拡大を期待しての買収のようです。

本業は活性炭材料であり、クラレはこの分野に将来的な需要があると見越したのことでしょう。クラレから下記のスライドが発表されているので、興味があれば覗いてみるのも面白いかも。

今回の買収については、のれんとして毎年40億円ずつ20年で償却予定です。今年の決算にも組み入れられています。

炭素繊維は軽量化と強度の両立への有望な素材

炭素繊維の利用先としては航空機や自動車などが挙げられます。
ヨーロッパでは多くの国で2040年までにエンジン車の販売が法律で禁止されるため、輸送機械のEV化は必至です。

EVではエンジンより重い高性能電池を積むので従来より2倍くらい重くなります。

そのため剛性や強度を維持しつつ軽量化が必須であり、東レや帝人などを始めとした各社は未来の膨大な需要に向かって技術開発を進めている状態です。

健全な財務で流動比率は2.8

直近は買収などで悪化したものの、フリーCFは基本的にプラスです。自己資本比率も60%になりましたが問題ない健全な財務です。驚くべきことに流動比率が2.8倍ありますので安定経営ですね。

クラレってこんな会社!       

1926年にレーヨンの国産化を目的に岡山県に設立された倉敷絹織が源流です。のちに倉敷レーヨンと改名され、さらに名前が短くなってクラレになりました。

「ビニルアセテート」、「イソプレン」、「機能材料」、「繊維」、「トレーディング」、「その他」の6部門を持つ。もともとが繊維会社なので、繊維や皮革などを主軸においた事業で海外売上割合が7割に達している。

「ミラバケッソ!」というアルパカのCMで有名(ミラバケッソとアルパカしか記憶に残らないCMでしたが)

クラレの直近決算

セグメントの名称売上高(億円)売上高前年比(%)営業利益(億円)営業利益前年比(%)主な製品
ビニルアセテート2,014△2.9360△17ポバール樹脂、ポバールフィルム、PVBフィルム
イソプレン400△6.341△33.8耐熱性ポリアミド樹脂、熱可塑性エラストマー
機能材料945△4.632△17.1メタクリル・炭素材料
繊維476△1.344△19.4人工皮革「クラリーノ」
トレーディング968△5.1300.3クラレの製品全般

事業全体での売上高は4289億円(△4.7%)、経常利益は141億円(△27.1%)です。事業内訳をみると全主力事業で売り上げも利益も落ち込んでいます。

営業利益率に注目すると機能材料だけが5%未満で他事業は10%もあります。

機能材料は独自技術を付与することで高利益を出しやすい事業分野なため、もっと利益率を伸ばせる態勢にするべくCalgon Carbon Corporationの買収を決めたのでしょう。

注目したクラレのニュース

4Qでは41年ぶりに最終赤字に転落

2/13にリリースされた決算短信では20億円の赤字で帰着した模様。19年12月期の業績下方修正は5回目です。

18年にKuraray America, Inc.で発生した火災事故に関して、和解金や弁護士費用などの訴訟関連費用を特別損失として計上したのが主因です。

2018年5月Kuraray America, Inc.のテキサス州Pasadenaのエバール工場で火災が発声

原告の被害者たちが訴訟を起こし、クラレは約340億円を支払うことで原告側と合意したため、この金額が特別損失として計上されている。

原告側は外部委託業者の作業員たちです。人が亡くなっているわけではないので、日本だとこれほど巨額にはならなかったでしょう。さすが訴訟大国アメリカです。

定期修理と能力増強の工事の際に火災が発生。原因は配管に高圧が掛かったことで安全バルブが外れ、流出したエチレンガスに溶接の火花で引火したため。

従業員と外部委託業者作業員の合計266名が現場におり、このうち21人が病院に運ばれたが、いずれも命に別条はなかった。

タイの新工場は22年半ばの稼働を目指す

Kuraray Advanced Chemicals (Thailand) Co., Ltdでの新工場の稼働準備が着々と進んでおり、2019年9月に地鎮祭が執り行われました。

タイは自動車や電機メーカーなどが集積し、消費地に近く原料供給のメドも立っていることから生産場所としては最適なようです。本工場では

自動車部品などに使われる耐熱性樹脂「ジェネスタ」のほか、日用品などに使われる熱可塑性の合成ゴム「セプトン」を生産予定。これらは日本工場でしか生産していなかったため、初の海外での能力増強となります。

包装用フィルムの新工場をポーランドに建設

2020年2月13日のニュースリリースです。投資額は50億円で、生産能力は非公表。洗剤や薬剤を個別に包装する用途として「水溶性ポバールフィルム」を増産する予定。2022年の稼働を目指している。

クラレの経営目標と事業内訳

スローガンは「世のため人のため、他人(ひと)のやれないことをやる

創立100周年となる2026年に向けて長期ビジョン『Kuraray Vision 2026』を策定。「独自の技術に新たな要素を取り込み、持続的に成長するスペシャリティ化学企業」をめざして価値あるサービスと製品づくりに取り組む。

中期経営計画『PROUD 2020』

① 競争優位の追求

顧客ニーズに基づく高付加価値製品・用途の開発推進や、今後、更に存在感が増す新興国・地域を、新たな機会創出の場として捉え、競争力の強化を図る。

② 新たな事業領域の拡大

独自技術の研鑽と外部技術の取り込みによる新事業の創出やM&A・アライアンスによる新領域の獲得により事業領域を拡大を図る。

③ グループ総合力強化

ビジネスの拡大に合わせたグローバル経営基盤の構築、コンプライアンス徹底の取り組みを強化していく。

主要事業の最新動向

[ビニルアセテート]

ポバール樹脂:高付加価値化が進み堅調に推移

光学用ポバールフィルム:需要の伸びにより販売量が増加。

水溶性ポバールフィルム及びPVBフィルム:販売量が増加

[イソプレン]

イソプレン関連製品:原燃料価格上昇を受けたが、販売量は前年並み

耐熱性ポリアミド樹脂<ジェネスタ>:自動車用途、コネクタ用途を中心に販売が拡大

[機能材料]

メタクリル:好市況が継続したことに加え、高付加価値品の販売が拡大して順調

 メディカル:歯科材料の審美修復関連製品を中心に順調に推移

[繊維]

人工皮革<クラリーノ>:スポーツシューズ向け出荷が減少

生活資材<クラフレックス>:高付加価値品の販売が拡大

[トレーディング]

繊維関連事業:ユニフォーム及びスポーツ衣料用途で堅調に推移し、海外縫製品も販売が拡大

樹脂・化成品関連事業:輸出を中心に順調

平均勤続年数は減少傾向

決算年月日2015年12月1日2016年12月1日2017年12月1日2018年12月1日
従業員数(単独)3,327人3,386人3,832人4,019人
平均年齢(単独)41.2歳41.2歳41.3歳41歳
平均勤続年数(単独)18.9年18.8年18.6年17.9年

平均勤続年数が4年間で18.9⇒17.9と1年縮んでおり、平均年齢はほぼ横ばいです。

従業員数が増えていて平均年齢が変化していないため、団塊世代の退職と同数だけ採用を行っていると考えます。

高年齢社の層が厚いと新卒を雇えなくなります。実務で仕事を牽引するのは20代後半~40代くらいまでの人間です。本来は新卒数をより増やして平均年齢を押し下げていくのが未来を見据えたときに良い形なのではないかと思います。

クラレの就活情報

学歴ボーダーライン

理系国公立大学院生以上なら狙える。全体の半数以上が旧帝大や東工大などで占められているイメージである。

就活選考フロー詳細(筆者就活当時)

ES提出(筆者脱落) ⇒ 会社説明会 ⇒ 志願書提出 ⇒ 一次面談 ⇒ 二次面接 ⇒ 適正検査 ⇒ 内々定

ESは提出してもサイレントでした。数か月後のみんなが就活終わったようなタイミングでお祈りメールを貰いました。ご注意ください。

志願書提出が鬼門

この志願書というのは教授の推薦書のことです。つまりクラレは専願でなければ初めからエントリーする資格すら与えられません。

本当にクラレに行きたいと願っている方は問題ないですが、その他の迷っている方は手を出しにくいかも。

会社沿革

1926年6月化学繊維レーヨンの企業化を目的に、「倉敷絹織株式会社」を設立(社長  大原孫三郎)
1933年11月東京及び大阪株式取引所に上場
1970年6月株式会社クラレに社名変更
1988年12月マジックテープ株式会社を設立、<マジックテープ>(商標)の生産を移管
1999年9月EVAL Europe N.V.<エバール>樹脂生産開始
2000年1月クラフレックス株式会社を設立、<クラフレックス>(商標)の生産を移管
2011年11月新潟事業所でアクリル系熱可塑性エラストマー<クラリティ>生産開始
2018年3月活性炭の製造・販売会社であるCalgon Carbon Corporationを買収
2018年6月PTT Global Chemical Public Company Ltd.、住友商事株式会社との共同出資により、タイにおけるブタジエン誘導品の製造、販売を事業とする合弁会社Kuraray GC Advanced Materials Co., Ltd.を設立
2018年6月 単独出資により、タイにおけるイソブチレン誘導品の製造、販売を事業とするKuraray Advanced Chemicals (Thailand) Co., Ltd.を設立

平均給与・勤続年数

従業員数(人)平均年齢(歳)平均勤続年数(年)平均年間給与(円)
4,019 41.0 17.9 7,002,575

クラレは従業員数は化学業界全体でみると適正な人数です。勤続年数が17.9年と業界では平均的な水準です。平均給与も業界では中の下といったところ。化学メーカーとしても少し低めの給与水準です。

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