本稿では三井化学株式会社の有価証券報告書を紐解いて会社分析をしていきたいと思います。経営状態や株価などをざっと俯瞰し、自分が本当に目指したい会社なのかの検討に役立てて頂ければ幸いです。
三井化学の基礎IR情報
決算年月 | 2017年3月 | 2018年3月 | 2019年3月 | |
売上高 | (百万円) | 1,212,282 | 1,328,526 | 1,482,909 |
経常利益 | (百万円) | 97,196 | 110,205 | 102,972 |
当期純利益 | (百万円) | 64,839 | 71,585 | 76,115 |
自己資本比率 | (%) | 33.9 | 35.7 | 36.8 |
自己資本利益率 | (%) | 15.6 | 14.9 | 14.3 |
株価収益率 | (倍) | 8.49 | 9.36 | 6.93 |
営業活動によるCF | (百万円) | 100,440 | 82,660 | 109,492 |
投資活動によるCF | (百万円) | △47,395 | △75,041 | △64,255 |
財務活動によるCF | (百万円) | △10,205 | △14,134 | 9,050 |
盤石な体勢だが成長性は高くない
2019年度は売上高14829億円に対して経常利益1030億円。経常利益率6.9%。化学企業での全体平均がここ五年間は6-8%程度(財務省発行 年次別法人企業統計調査 より)なため、営業利益は平均的です。
財閥系化学企業において売上第三位のポジションにいます。三菱ケミカルHDを筆頭とする全化学企業の中では三井化学は7位につけています。
ここ5年は業績が安定的に推移していたため株価が動く材料に乏しいです。そのため景気に左右された株価だったといえます。
平均勤続年数
2015年3月 | 2016年3月 | 2017年3月 | 2018年3月 | 2019年3月 | |
単独従業員数 | 4,605人 | 4,314人 | 4,203人 | 4,275人 | 4,404人 |
連結従業員数 | 14,363人 | 13,447人 | 13,423人 | 17,277人 | 17,743人 |
平均勤続年数 | 19.1年 | 19.3年 | 19.1年 | 18.5年 | 18.2年 |
5年分の従業員数と平均勤続年数の推移をみると毎年勤続年数が減少していることが分かります。
当初はアーク株式会社を連結に加えて母数が増えたからだと判断しましたが、よく読むと記載の平均勤続年数は三井化学単独でした。
・団塊世代がごそっと辞めた
・優秀な人間が外部へと流れている
株式会社アークの概要
新たに三井化学が取得した株式会社アークは小ロットの自動車関連の機械設計を受託製造する東証一部上場企業です。
もともと直近では資金繰りが苦しくなりつつあったアークですが、三井化学の潤沢な資金とモビリティ分野の豊富な蓄積データを供給されることで更なる好業績化を計ろうとしています。
三井化学としても連結で500億円ほど売上高が増加しますし、製造・設計専門であるアークのノウハウを活用してモビリティ市場で優位に立とうという魂胆でしょう。
ちなみに三井化学はアーク株式をディスカウントTOBで70%だけ取得しました。したがってアークは子会社ではありながら上場を維持し続けています。
三井化学の注目ポイント
財閥系といえど中身は平凡。これからの投資に期待
三井・住友・三菱などの財閥系企業といえば就活生が憧れる高嶺の花という印象です。しかし財務や製品を見ていくと、別段凄いわけでもなく平凡です。
技術力勝負の日本企業は機能性材料でいかに独自シェアと営業利益を伸ばしていけるかの勝負です。その点でいっても機能性材料で営業利益率が10%に届かないのは好ましい状況とはいえません。
三井化学としても機能性材料分野でシェアを伸ばそうとしており、(株)アークの子会社化・機能性材料分野への積極的設備投資を頑張っています。
財務も健全なので経営上問題はない
常にフリーCFはプラスで推移しており、流動比率も2倍近いことから短期の資金繰りには特に問題はないです。また自己資本比率も37%あるため業界平均くらいで問題ありません。30%を切ってくると少し心配になってきますが。
売上自体が巨大なため、ちょっとやそっとの施策では利益面の底上げは難しいと思います。現状を維持しつつ潤沢な資本を機能材料に注入していく今のスタイルで方針としては良いのかと。
安定しているので学生さんにお勧めできる企業です。学歴ボーダーラインがすこぶる高いのは玉にきずですが。
三井化学の就活情報
就活学歴ボーダーライン
東大・京大をはじめとする旧帝大が大多数を占める。
残りの少数枠に上位国立大学の学生が入社するようなイメージ。旧財閥系化学企業としての貫禄がある。技術系総合職も文系総合職でも旧帝大以上でないと厳しい。
まだ理系なら地方国立大学院生以上なら可能性はあるが、文系は帰国子女でスゴイ経験持ってるようなウルトラスーパースペックでないと無理だと思います(ここには筆者の偏見が多分に含まれている可能性あり)
選考フロー詳細
説明会⇒ES提出⇒懇談会・面接⇒技術面接・最終面接⇒内定
まず説明会に行かないと始まりません。必ず足を運びましょう。一見採用には関係ない事前説明会のようなイベントが実は採用の入り口になっています。
目指している方は些細なイベントでも出席しましょう。
重要な沿革
1955年7月 | 三井石油化学工業㈱設立 |
1965年2月 | 株式が東京・大阪証券取引所市場第一部銘柄に指定 |
1987年10月 | 新技術研究開発センター(現在の袖ケ浦センター)設置 |
1997年10月 | 三井東圧化学㈱と合併し、商号を三井化学㈱と変更 |
2005年4月 | 当社及び出光興産㈱のポリオレフィン事業を統合し、㈱プライムポリマー(連結子会社)設立 |
2009年4月 | 当社及び三共アグロ㈱の農業化学品事業を統合し、三井化学アグロ㈱(連結子会社)設立 |
2010年10月 | 当社、東セロ㈱及び三井化学ファブロ㈱のフィルム・シート事業を統合し、三井化学東セロ㈱(連結子会社)発足 |
2013年6月 | ドイツHeraeus Holding GmbH より、Heraeus Kulzer GmbH(現在のKulzer GmbH(連結子会社))を含む歯科材料事業を買収 |
2015年7月 | 当社及びSKC Co., Ltd.のポリウレタン材料事業を統合し、Mitsui Chemicals & SKC Polyurethanes Inc.(関連会社)設立 |
2018年1月 | ㈱アークの株式を公開買付により取得し、連結子会社化 |
三井化学の事業分野と経営目標
セグメントの名称 | 連結売上(億円) | 営業利益(億円) | 営業利益率(%) | 連結従業員(名) |
モビリティ | 3,954 | 427 | 10.8 | 6,408 |
ヘルスケア | 1,446 | 136 | 9.4 | 2,665 |
フード&パッケージング | 1,994 | 178 | 8.9 | 2,587 |
基盤素材 | 7,165 | 278 | 3.9 | 1,797 |
その他 | 250 | -14 | ― | 4,286 |
合計 | 14809 | 1005 | 6.8 | 17,743 |
2025年の中期目標として売上高20000億円、営業利益2000億円を掲げています。研究開発費も2016年と比べて2倍に増額する予定。基盤素材分野以外の機能材料分野の躍進が期待されます。
モビリティ領域
自動車やICT業界における軽量化、電動化、快適性といった新しいニーズの拡大に対応。
ポリプロピレン・コンパウンド:自動車のバンパー用途。欧州初の自社生産拠点を建設中。
ルーカント®:潤滑油の高機能化用途。新プラントを建設して生産能力の大幅増強を決定。2018年1月に連結子会社としたグローバル開発支援企業である株式会社アークと顧客起点でのソリューション提供力を強化。
ヘルスケア領域
TouchFocus®:遠近両用の次世代アイウェア。メガネレンズ材料では世界トップシェアを誇る。堅調な販売を継続。
エアリファ®:柔らかさと強さを兼ね備えた高機能不織布。アジアで人気の高まるプレミアム紙おむつ需要に応えられるよう、国内2か所において不織布プラントを増設。
フード&パッケージング領域
世界の人口増加に伴う食料の確保が社会課題となっており、食品パッケージング分野での高機能化や環境負荷低減といったニーズが高まっています。
イクロステープTM :半導体製造工程用の保護テープとして世界トップシェア。需要地である台湾で新工場建設。
農薬分野:新規製品の開発を加速するとともに、アジアを中心とする需要地における事業基盤の整備を進めている。
平均年収・勤続年数
従業員数(名) | 平均年齢(歳) | 平均勤続年数(年) | 平均年間給与(円) |
4,404 | 41歳 | 18年2カ月 | 8,501,004 |
三井化学は売上にしては従業員数が少なめです。財閥の名を冠する歴史ある企業で勤続年数が18年と普通の水準です。平均給与も業界では中の上といったところ。
平均給与額の算出方法がこれといって定められていないため、各社によって”どの職責までを平均に組み入れるのか”という基準が違います。
不当に低く見せたり、不当に高く見せたり自由自在です。
特にメーカーは社員の給与が高すぎると、それをダシにして取引先からもっと製品を安く売れとか恐喝されるので各社低めに算出する傾向があります