本稿では日産化学株式会社の有価証券報告書を紐解いて会社分析をしていきたいと思います。経営状態や組織図をざっと俯瞰し、自分が本当に目指したい会社なのかの検討に役立てて頂ければ幸いです。
日産化学の基礎IR情報
回次 | 第147期 | 第148期 | 第149期 | |
決算年月 | 2017年3月 | 2018年3月 | 2019年3月 | |
売上高 | (百万円) | 180,289 | 193,389 | 204,896 |
経常利益 | (百万円) | 31,713 | 36,235 | 39,098 |
当期純利益 | (百万円) | 24,026 | 27,142 | 29,372 |
自己資本比率 | (%) | 69.9 | 71 | 73 |
自己資本利益率 | (%) | 15.1 | 16.1 | 16.6 |
最高株価 | (円) | 4,625 | 6,370 | 6,130 |
最低株価 | (円) | 3,175 | 3,780 | 4,120 |
株価収益率 | (倍) | 20.64 | 24.51 | 25.65 |
営業活動によるCF | (百万円) | 32,491 | 37,691 | 32,070 |
利益も売上も上がっている理想の企業
2019年度は売上高2049億円に対して経常利益391億円。経常利益率19.1%。化学企業での全体平均がここ五年間は6-8%程度(財務省発行 年次別法人企業統計調査 より)なため、過去5年間ベースで考えても営業利益が出すぎです。
株価面においては毎年100~200万株ずつ買い上げて消却しており、株価対策もしっかり行っています。時価総額も東ソーや昭和電工、三井化学などの1.5倍ほどです。株主からの期待を一身に背負っているといえます。
会社の変遷と由来
日本初の化学肥料製造会社である東京人造肥料会社が母体です。
1937年に日本化学工業株式会社に資産等を包括譲渡して、日産化学工業株式会社に改称しました。日立・日産系のグループに属していたため社名に日産という名称が付いています。
また2018年8月より日産化学へと改名をしました。改名前の日産化学工業という名前が古臭く、デジタル化が進んだ昨今においてウケが悪いので変更したのでしょう。
1949年に日産化学の母体から分離された油脂事業は現在の日油株式会社です。日油も日産化学と同程度に営業利益率が高いのは源流が同じだからかもしれませんね。
日産化学の注目ポイント
Brewer Science, Inc.とのライセンス契約を2028年まで延長
Brewer Science, Inc.はARCやoptistackといった半導体用反射防止コーティング剤が主力です。
Brewer Science, Inc. との半導体技術の共同商標ライセンスを1997年に取得したことが、日産化学が半導体事業に参入するキッカケとなりました。アジア地域ではトップシェアを誇っており、稼ぎ頭の製品でまだまだ衰えません。
フォトリソグラフィを行う際、シリコンウェーハ界面とレジスト表面で起こる光の反射を防止する製品です。
もし光の反射が起こってしまうと、余計な定常波がレジスト内部に残ってしまうため、せっかく刻んだ回路にシワが生まれて製品不良になります。
インドに農薬工場 Nissan Bharat Rasayan Private Limited を建設
2020年2月18日にインドの大手メーカーでバラットラサヤン(BRL)と合弁で、殺虫剤エルサン現地生産すると発表した。
日産化学㈱(木下小次郎社長)はこのほど、インドのBharat Rasayan Limited(=BRL社)と ……
農薬分野は日産化学で30%近くもの営業利益を出す柱ともいえる主力事業。インドを生産拠点に加えることで、山口の主力拠点から海外への売上規模拡大を目論んでいる。
首都ニューデリー郊外に設立される合弁会社は日産化学が7割、BRLが3割を出資している。金額としては15億円程度なので営業利益の5%程度と社運を賭けたプロジェクトというわけではない。
BRLは2013年から殺虫剤エルサンの委託生産してきた実績があるため、今回のような決断に踏み切った模様。詳しい開示内容は下記のリンクから飛べるので、気になる方はチェックしてみてください。
稲、野菜、茶、くりなど、広範囲の作物に使える汎用殺虫剤です。速効的であり、また各種害虫の同時防除が可能です。定番の殺虫剤のようです。
<効果を発揮する害虫たち>
ニカメイチュウ・イネドロオイムシ・カメムシ(稲)、モモノゴマダラノメイガ(くり)、コナガ・アブラムシ(アブラナ科野菜)など
業績伸長は素晴らしいがキャッシュフローは少し気になる
営業利益率は10%を余裕で超える高い水準にあり、売上高も成長している素晴らしい企業。自己資本比率も70%と非常に安定した経営であり、流動資産も流動負債の2.5倍ほどあるので安心。
今期のフリーCFがマイナスだったのが少し心配。自社株買いや高い配当性向によって株主還元しすぎなのではないでしょうか。あと、もう少し設備投資などに充ててもいいのではないかと思いました。
大量保有報告書にブラックロック(著名なヘッジファンド)の名があることから、アクティビストにプレッシャーを掛けられていたりするのかも。まあブラックロックは堅実なので心配は不要かもですが。
世界GDPの6%を運用する巨大なアメリカの資産運用企業。ちなみにこの運用資金量は日本のGDPよりも多額です。
一つの国レベルに金を持っているバケモノ企業です。世界24カ国にて拠点を構えており日本にも支社が存在します。
日産化学の就活情報
日産化学は間違いなく10年後も生き残っている企業であり、化学系技術職の就職先候補の一つとしてオススメの優良企業。全体として稼ぐ力を持っているので先行きは光明が見えていますね
学歴ボーダーライン
技術系総合職は地方国立大学院生以上なら可能性がある。基本的に関東上位国公立がボリュームゾーンであり、旧帝以上の割合は少ない。
選考フロー詳細
ES提出⇒書類審査⇒1st 面接(1vs複数)⇒ 2nd 面接(1vs複数)⇒役員面接⇒ 内々定
2nd面接あたりで教授の推薦書を出さないと先へ進めない。強く希望するならば推薦書を出す準備は必須。
面接の雰囲気
日産化学は推薦を出せばES免除で面接まで辿り着けます。
が、単に日程が早まる関係で免除されるだけで、一発目の面接と同時に書類審査もされています。
面白いのはマッチング採用として部門毎に採用を行っているため、面接では各部門の担当者が一人ずつ出席します。
初っ端から1vs7とかになるので圧迫面接みたいな雰囲気になりますね。でも紳士な方ばかりなので不快な思いをすることはないと思います。
必ずしも専攻がマッチしていないと合格しない訳ではありません。
全然違う専攻でも合格した人を知っています。本人の素養と知識範囲と求心力など色々みて採用を決めていると思います。
日産化学の事業詳細
売上高(百万円) | 営業利益(百万円) | 営業利益率(%) | 従業員数 | |
化学品事業 | 35,651 | 3046 | 8.5 | 398 |
機能性材料事業 | 63,031 | 14961 | 23.7 | 752 |
農業化学品事業 | 62,724 | 18351 | 29.3 | 481 |
医薬品事業 | 7,009 | 1000 | 14.3 | 183 |
卸売事業 | 67,880 | 2037 | 3.0 | 161 |
日産化学の事業分野一覧を見ると、面白いことに売上高の三分の一は「卸売事業」です。これは100%子会社化した日星産業の売上分ですね。卸売事業では営業利益率は3%しか出ていません。
つまり化学企業全体でみた売り上げ規模は大企業寄りの中堅といったところです。日星産業の売上高を抜いた純粋な化学事業としての売上は1500億円程度。
とくに農薬事業が利益率で突出していますね。従業員数が少なく固定費が小さいことも理由かもしれません。まあ化学事業諸々の売上に対して利益率が20%も出てるのは凄いです。
化学品事業
基礎化学品:高純度硫酸(半導体用洗浄剤)で売上減、メラミン(合板用接着剤原料等)は増収。
ファインケミカル:ハイライト(殺菌消毒剤)は増収、「テピック」(封止材用等特殊エポキシ)売上減。
機能性材料事業
ディスプレイ事業:「サンエバー」(液晶表示用材料ポリイミド)の中小型端末向けが好調。
半導体材料:半導体用反射防止コーティング材(ARC®*)および多層材料(OptiStack®*)が販売増により増収。
無機コロイド材料:「スノーテックス」(電子材料用研磨剤、各種表面処理剤等)の一般用途向けが増加。オルガノシリカゾル・モノマーゾル(各種コート剤、樹脂添加剤)やオイル&ガス材料(シェールオイル・ガス採掘効率向上材)は低調。
農業化学品事業
「アルテア」(水稲用除草剤)順調に推移。
「ラウンドアップ」(非選択性茎葉処理除草剤)は日本国内の猛暑や自然災害の影響により厳しい状況。
「パルサー」(殺菌剤)の増加や「タルガ」(除草剤)の出荷前倒し、韓国における「グレーシア」(殺虫剤)の販売開始などにより、好調に推移した。
医薬品事業
「リバロ」原薬は、国内外共に後発品の増勢により売上減少。
「ファインテック」(医薬品技術開発型受託事業)は堅調な売上。
平均年収・勤続年数
従業員数(人) | 平均年齢(歳) | 平均勤続年数(年) | 平均年収(円) |
1,861 | 40 | 15.8 | 7,957,988 |
日産化学は売上にしては従業員数が少なめです。
1887年から続く歴史ある企業のわりに勤続年数が16年と短めなのが気になります。どこかブラックな部署が大幅に勤続年数を押し下げている可能性は大いに考えられます。平均給与は業界では上の下といったところで高めです。
平均給与額の算出方法がこれといって定められていないため、各社によって”どの職責までを平均に組み入れるのか”という基準が違います。
不当に低く見せたり、不当に高く見せたり自由自在です。
特にメーカーは社員の給与が高すぎると、それをダシにして取引先からもっと製品を安く売れとか恐喝されるので各社低めに算出する傾向があります