本稿では日清紡株式会社のIRを紐解いてをしていきたいと思います。経営状態や組織図をざっと俯瞰し、採用面接や企業選びに役立てて頂ければ幸いです。
日清紡HDの基礎IR情報
回次 | 第175期 | 第176期 | 第177期 | |
決算年月 | 2018年3月 | 2018年12月 | 2019年12月 | |
売上高 | (百万円) | 512,047 | 416,221 | 509,660 |
経常利益 | (百万円) | 19,700 | 1,566 | 11,703 |
当期純利益 | (百万円) | 26,352 | △7,182 | △6,604 |
自己資本比率 | (%) | 41.2 | 40.1 | 38.6 |
自己資本利益率 | (%) | 10.6 | △2.8 | △2.7 |
株価収益率 | (倍) | 8.9 | ― | ― |
営業活動によるCF | (百万円) | 32,414 | 15,495 | 26,249 |
投資活動によるCF | (百万円) | △1,797 | △20,723 | △21,759 |
財務活動によるCF | (百万円) | △34,784 | 11,935 | △10,065 |
2018~2019年度までの3期分の業績推移では2019年に赤字転落しています。売上高5000億円規模であり、経常利益はなんとかプラスですが最終損益は赤字です。負債が増えて資産が減っているため自己資本比率も年々落ちていっています。直近10年をみても営業利益が2-3%台とかなり厳しいです。
2019年度は経常利益で117億円でしたが、特別損失として子会社であるTMD社の事業用設備を170億円ほど減損したため赤字になっています。
営業CFがプラスになっているのは減価償却費と減損損失が大幅に加算されているためです。その他にも配当金の受け取りなどで何とかプラスにしています。またフリーCFは2018年にはマイナスになっているため、ギリギリで持ちこたえている印象です。
多角化のシナジーが利益体質を決める
日清紡は事業のシナジーが上手く働いていない例といえます。扱っている製品をみると無線通信事業・ブレーキ事業・精密機器事業・化学や繊維品事業・不動産事業と無意味に分散され過ぎです。
同様の経営方法をしている会社は昭和電工やカネカなどが思いつきます。これらの会社は低利益率の体質になっていて儲かっているとはいえません。いわゆる器用貧乏なイメージですね。
東ソーやクラレなどのように源流製品を材料として中間素材まで開発するような経営をしていると利益が安定します。しかし各事業が分離独立していると協働できず中小企業連合になってしまいます。互いの強みで相互扶助しあえないので利益体質が弱くなってしまうのです。
なんでも扱う会社は労働者にとってはお得

ベクトルの異なる事業を沢山抱えているのは利益面ではマイナスですが、働く労働者にとっては転職をしなくても好きな製品を触りにいけるというメリットがあります。
転職では多くの場合で賃金が低下してしまいますが、全く別の事業をしてみたいと思ったときに社内で完結できるのは労働者にとっては一つのメリットかもしれません。
また連結ベースでは売上の5%を研究開発に充てているため、さかんにシーズ探しは行っていると感じます。分野を問わず研究活動をしてみたい学生は、ひとまず入社して配属された部署で頑張ってみるのはいかがでしょうか。
就活生には強くおススメはできない
経理の状況をみるにコロナウィルスによる一時的な売り上げの落ち込みではありません。明らかに業績が下降傾向にあります。赤字を出し続けると上場維持が出来なくなるため、企業も構造改革と称して高給取りの40歳以上を対象にリストラを行います。
もちろん新卒の20代はリストラの対象にはなりませんが、リストラで出ていく人材は優秀な人ばかりです。リストラ後の搾りかすしか残っていない脆弱な経営体制の中で仕事を回していくのはとても大変です。
個人的にはいつリストラに着手してもおかしくない状況に思えます。手放しにオススメはできない企業です。
株価的な視点での分析
コロナ発生までの好景気にも株価は低下し続けています。最新の1QではPBR0.4倍まで売り込まれており、相場関係者も業績をかなり危ぶんでいるのが分かります。
大株主は通常の機関投資家がメインですが、6.33%にあたる110億円分を帝人が保有しているのは驚きです。帝人の投資活動によるキャッシュフローに少なからず打撃を与えているでしょう。
財務面では流動比率1.3倍と1倍に迫るので少し心配です。また自己資本比率は40%と普通です。純資産が2000億円程度あるため、すぐに経営難になる可能性はないと思います。ただ業績の大幅伸長が期待できそうな伸び代はないので長期で配当目的で持つにしても他の化学メーカーを選びたいと思う。
日清紡ってこんな会社!
セグメントの名称 | 金額(百万円) | 営業利益 |
無線・通信 | 152,212 | 4,100 |
マイクロデバイス | 65,285 | 256 |
ブレーキ | 131,338 | -3,340 |
精密機器 | 65,428 | 879 |
化学品 | 9,390 | 1,649 |
繊維 | 49,505 | 1,036 |
その他 | 11,655 | 8,163 |
合計 | 420,710 | 12743 |
1907年に母体である日清紡績が操業されたので、すでに100年以上経過している歴史ある会社です。もともとは紡績業でしたが、繊維系の売り上げは衰退しています。他の事業も積極的なM&Aで売上を増大させてきました。
現在の日清紡は売上規模的に無線通信事業とブレーキ事業を二本柱としています。上記の通り様々な業種に手を出しているコングロマリットです。
無線通信事業は新日本無線や日本無線など大手のエレクトロニクス事業会社を子会社化した結果として最大の売上になってます。またブレーキ事業ではルクセンブルクの大手ブレーキ摩擦材メーカのTMDを買収したことで売上が増大しています。
ちなみに日清製粉とだけ相互出資をしていますが、他の日清系企業とは無関係です。
CMはある意味で有名
さて日清紡はBtBが基本であるので消費者が知っている有名な製品はありません。しかし有名なものがあります。それはなにを紹介したいのかよくわからないCMです!
ひたすらにっしんぼーと繰り返すだけで、結局何をやっているか分からない。そんなCMがあまりにも有名なのでこのエントリーを読んでみて何をやってる会社か知っていただけるだけで就活の幅が広がります。
面白いので話のネタに見ておくのがオススメです。
日清紡という社名の由来
日清紡績から来ています。なぜ日清という名前にしたかというと、第一次世界大戦前の1900年代に隣国であった清(韓国)と貿易をして日清で良い関係を作ろうという思想から来たようです。
当時は綿糸は海外からの輸入に頼っていたため貴重で高級な品でした。それを国産するために作り出されたのが日清紡績です。第一世界大戦で大打撃を受けながらも操業を続けて繊維事業を拡大しようとしたときに、化学繊維・自動車ブレーキ・メカトロニクスといった製品群に手を出したようです。自動車ブレーキは石綿が長らく使われてたので繊維と関係ありますが、メカトロニクスはあまり関係ないように思えますね。
日清紡の就活情報
注目したニュース
RBI GmbH, LEAS GmdHの子会社化【2020年4月】
RBIは情報・娯楽の両面を備えた車載機器の開発支援を主力としている会社です。LEASは車載機器の組み立てを行う会社です。これらが主に作っているのが輸入車用の高速道路のETC車載機です。
日本は加入任意ですが、国によっては標準機能として設置がマストのところもあります。それだけ新興国などでマーケット開拓が出来そうですが、反面として国ごとにETCの仕様が異なるために適用に苦労するようです。
今回M&Aしたのはドイツの会社なので分かると思いますが、欧州自動車メーカー向けの車載器ビジネスに注力していくための投資です。
コロナ禍ではマスクを200マン枚分を生産【2020年2月】
マスク不足のためにインドネシアの子会社工場にてマスク用ガーゼ200万枚を供給しました。さすがは元祖が紡績業の会社ですね。といっても使用する工場ラインはドレスシャツ用生地の生産ラインの転用であるため、コストもさほど掛かっていないようです。
ガーゼに加えて耳掛け用のモビロンテープも数千万円の投資を行って年6億枚分へと能力を増強しました。コロナ禍ではマスクが足りない経験をしたと思いますが、実際に例年の5倍もの需要要請があった模様です。現在でもマスクはいきわたる状態になってきましたが、通常時と比べるとまだマスク価格が高騰している印象を受けます。このままマスク需要がひきあがった状態が何年も続く可能性も十分あることから今後の動向も見極めていきたいところです。
事業別の製品開発
無線・通信
マリンシステム分野
・自律航行に向けてレーダおよび船舶自動識別装置(AIS)情報に基づく衝突危険領域の算出と避航ルート策定の研究を進めている。
・操船の利便性向上に向けては電子海図情報表示装置(ECDIS)上で動作する国際VHF無線電話装置のリモート操作機能および航海ルートにおける衛星通信が遮断される位置の表示機能を開発。
・船舶運航の効率向上に向けては航海情報記録装置(VDR)および電子チャートテーブル(J-Marine NeCST)と陸上システムを通信で連携させ船舶運航状況を把握できる機能を開発。
モビリティ分野
・超音波センサーでの障害物検知システム、ミリ波レーダと単眼カメラを併用した3D認識技術を開発している
社会インフラの分野
・新型Cバンド気象レーダ、迅速にネットワーク回線を構築できる無線アクセスシステム、IoTとAIを用いた水位予測システムを開発した
・物流と工場の効率化をする屋内位置管理システムを開発した。
通信分野
LTE通信システムの可搬型基地局のさらなる小型化および高度なサイバーセキュリティ機能を開発しました。災害時にすぐに設置可能な技術のようです。
マイクロデバイス
・スマートフォンやAIスピーカー向けにマイクモジュール向けの次世代製品、ウェアラブル端末や健康機器応用製品向け光センサ等の次世代製品の開発を進めている
電源IC 分野
・CMOSアナログ技術をコアとして小型、低消費、高効率、高精度、高信頼性の製品開発を進めています。
・車載向けでは次世代パワートレイン機器向けの高耐圧・大電流・高品質なICに加えて、自動運転の機運の高まりにより要求が増えているADAS機器向けに機能安全への対応、センサーの精度を向上させる低ノイズ、対ノイズ性能を向上させたICの開発を進めています。
・IOT市場向けにウエアラブル機器、ワイヤレスセンサーネットワーク機器、産業機械のM2Mプラットフォームをターゲットに、小型・低消費電流・低ノイズのICを開発。
・スマートフォン向けの高精度、補聴器向けの超小型の1セル保護IC、パワーツール、E-Bike等に向けた多セル保護ICとアナログフロントエンドIC、ノートPC、パワーツール等に向けたセカンドプロテクションICと多様な製品開発を進めています。
・Mixed-Signal ICでは、画像用ICや通信用ICで培ってきた独自技術を応用したアナログ・デジタル混載の製品開発を行っており、ヘッドアップディスプレイ機器向けのLaser Diode Driver(LDD) ICを量産しました。
自動車用ブレーキ
海外子会社への開発支援体制の強化や、開発・製造・生産技術の連携による原価低減活動を促進し、競争力強化を図っています。
精密機器
プラスチック製品事業
空調機器用ファンや自動車部品をはじめ、住宅設備や医療向け製品など広い分野で成形・金型技術を活かした製品の研究開発に取り組み。
精密部品事業
次世代の自動車用EBSに用いられるバルブブロックの加工・検査技術について、従来品と同様の高精度加工、高品質を低コストで実現するための開発に取りくみ。
化学品
機能化学品事業
・環境配慮型製品の普及に役立つ架橋剤、改質剤の開発及び電子材料用添加剤の開発を進めています。とくに「海洋環境を利用する新しい海洋生分解性プラスチックの創出」の研究開発に取り組んでいる
断熱事業
環境に優しい低温暖化係数断熱材の実用化、今後のエネルギー政策に大きくかかわるLNG等超低温分野の断熱技術の開発や、排水処理用微生物固定化担体、安全安心な住宅に寄与する不燃断熱材等の開発に取り組む。
繊維
・ノーアイロンシャツに代表される「アポロコット」シリーズにネクタイ、ニットビジネスシャツを加えるなど関連商品を拡充するとともに、「次世代エコ漂白技術」「無水染色技術」等のSDGsに貢献する将来技術の探査を開始しています。
・作業員や妊婦の健康を見守る「見守りサービス」、騒音職場でのスムーズな意思疎通を可能とする「労働環境の改善」などに対応するスマートテキスタイルの開発。
学歴ボーダーライン
技術系総合職は地方国立大学院生がメイン層。旧帝大のメンツが内定者のうち2割もいないので院卒であれば気張らずとも大丈夫です。
選考フロー
履歴書・ES提出 ⇒ ウェブ適性試験 ⇒ 一次面接 ⇒ 二次面接 ⇒ 最終面接 ⇒ 内々定
説明会は選考とは無関係ですが、志望度が高ければ出ておくのが無難です。少数での質問タイムもあるようなので質問事項は予め考えておきましょう。webテストはSPI3をテストセンターで受験することになります。
面接内容は自己PRや志望理由、ガクチカといった基本的な項目です。奇をてらった変な質問はないようです。
基本的に面接回数は3回ですが、人によって2回など異なるようです。最終面接では推薦書の持参を求められるので、内定したら入社するつもりで挑みましょう。面接後の連絡対応も遅くはありません。
内定が欲しいからと妥協してはダメ
内定が欲しいあまり自分に嘘をつくのはオススメしません。大抵は対話した内容から配属部署が決定されます。一度決定された配属部署はむこう3年は変われないと思っておきましょう。自分がやりたくない部署に当たったら最悪です。
怖がらずに自分の希望を伝えてお互いにミスマッチのないようにしましょう。筆者のようにモヤモヤしながら働くことにならないように。
平均年齢・勤続年数
平均年齢(単独) | 44.9歳 | 45.1歳 | 45.3歳 | NA | 44.9歳 |
平均勤続年数(単独) | 20.7年 | 21.5年 | 21.8年 | NA | 21.5年 |
平均年収(単独) | 764万円 | 770万円 | 767万円 | NA | 751万円 |
平均年齢は45歳で平均勤続年数21年と長めです。業績が伴っていないことからも、まったりダラダラと仕事をしている管理職が多そうな印象を受けます。
平均年収は日本の大手化学メーカーなら普通というところです。平均年収は集計する対象をどこまでの範囲にするかで容易に数字を弄ることが出来ます。あくまで参考程度に見ておきましょう。