理系大学院はコストに見合うか

かわいい子には旅をさせろといわれるほど、若いうちに苦労をする経験は大切です。人間は様々な場所を巡って、そこでしか得られない経験をすることで一つひとつ対処方法を学んでいきます。

この事実は一度遭遇した敵の情報を覚えて、予め対抗物質を用意する免疫機構に似ていると思います。

過剰に反応しすぎてアナフィラキシーショックに代表されるような重篤な症状を起こすところも人間とそっくりです。重篤な症状は人間でいうトラウマに相当します。あまりに強い刺激に触れすぎるて嫌いになったことなんて皆さんもあるのではないでしょうか。

筆者がいた理系研究室では、トラウマになるか、経験になるか際どいイベントが多々あります。大学院生になってできる経験を筆者の独断と偏見と共にざっくりと書き連ねていきます。

理系大学院生の力:長時間労働への忍耐

別記事にも示したとおり、筆者が在籍していた有機化学系の研究室はとにかく忙しいです。その理由は一つの実験を試行するのに数時間~数十時間かかるためです。

一般的に理系大学院の有機化学研究室は研究目的別に二つの系統に分けることができます。

  • ゴールの化合物を合成する経路を発見する
  • 化合物を調べて新しい性質を発見する

筆者が在籍していた研究室は新しい性質を研究していました。二系統のどちらも基本的に掛かる時間は変わりません。

Aを実験検証⇒新たな事実Bを発見⇒Bを実験検証⇒新たな疑義Cを発見⇒……

永遠に研究は終わりなんてありません。幾らでも突き詰められます。

結果として12時間労働が当たり前になり、徹夜もあります。一時間おきに反応容器に滴下せねばならないとか、反応がどこで終わるか分からないとか、理由は様々です。

理系大学院生を強制的に働かせる仕組み

理系大学院の研究室は実にうまく研究させるシステムが出来ていると感じています。

お金を貰っていない以上、無賃で働く義理は何もないのです。ある程度研究を体験して飽きたら「やーめた」って言って出ていくのが一番ラクです。

しかし”卒業できなくなる”という強迫観念を目の前に吊るされているので必死に働かざるを得ない。しかも”労働”でなく”教育”のため労働基準法も及ばない治外法権が適用される魔法の空間です。

「バイトを安時給で働かせるな!」などと低賃金是正を求める声もびっくりの時給0円で働いてくれて頭脳明晰な労働力たちです。理系大学院生が残業に耐性を持っている理由がなんとなく分かりますね。

理系大学院生の労働を給料に換算すると

常々、大学院生の三年間を給料換算したら1000万超えるだろ! と思っていたので給料を試算してみます。まずは労働時間を計算します。

一日の拘束時間12時間のうち、3時間ほどは昼飯・晩飯・休憩に充てていました。したがって控え目に実働9時間として考えます。毎日1時間の残業ですね。

さて日本では一日八時間労働を超過すると残業代が発生します。法定では残業分に関しては賃金を25%上乗せすることになっています。

土日休みと考えると(実際には常に土日休みじゃないけど)月20時間の残業となります。

時給は簡単化のために1000円とします。バイトの感覚からすると高めかもしれませんが、新卒社員の給料を時給換算すると約2000円です。これでもかなり安めに計算しています。

月160時間労働+20時間の残業ですので以下の月給になります。

40 (時間) × 4 (週間) ×1000(円) + 20 (時間) × 1250(円) = 185000 (円)

年収に換算すると 185000 × 12 = 2220000(円)

理系の大学院生活3年間のコストは800万円

理系の大学院生が三年間で奉仕する労働を給料換算すると三年間で6660000円でした。

これだけでなく学生ですから学費というコストを払っています。国立大学で試算しても3年間で約1500000円です。

この額に三年間の生活費300万円を加えたいところですが、生活費はいついかなる状況でも発生します。この試算に足し算するのはナンセンスでしょう。

実際の出費は学費と生活費ですが、この三年間の給料獲得の機会を損失すると考えると理系で大学院へ行く判断もよくよく考えた方がいいと感じました。

生涯賃金は理系なら院卒の方が高い

生涯賃金に関しては理系なら院卒の方が高いという調査結果が内閣府のレポートで示されています。

長いですが論文みたいに詳細に研究されているので一読してみると面白いです。理系院卒は平均すると5000万円ほど学卒よりも平均年収が高いそうです。

ただ、これは高度経済成長期でリストラが殆どなかった時代を生きて定年を迎えた人々が多い時期のデータなので、将来的にこうなるとは思えません。

これからは誰もが一度は転職するような時代だと筆者は考えております。

筆者が理系として大学院へ進んだ理由は「そういうモノだから」

子供の考え方はえてして親の鏡写しです。この傾向は目標に出来るような良い親を持つ子供に多いと思います。

良い親が持っている思想は正しいという固定観念が出来てしまうからです。

逆に毒親と呼ばれる両親を持つ子供は早期から不信感を抱き、自立して情報を集めて自分の考え方を形成します。そのため若い時期から自分の判断で物事を動かすことが出来るので人生で成功しやすいといえます。

俗にいうハングリー精神というヤツです。初めから不満を持っていない子供には持ちえない精神です。筆者も良い家庭環境で育てられ、大してハングリー精神を持っていない人間でした。

だからこそ親が大学院まで出ているのを見て、同じレールなら間違いないという安直な思考に至って大学院に進みました。

その良否は置いておいて、浅はかな判断だったと少し後悔しています。

研究室で得られるモノはさほど多くない

さて800万円というコストに見合うだけの経験が研究室で出来るかと問われれば、筆者は首を横に振らざるを得ません。

学会という狭い閉じた世界での人間関係や社会経験しか得られないからです。

研究するという過程を経験できることは素晴らしいことです。しかしその経験も一年も経てば目新しさのないルーティンワーク化してしまいます。

2年ほどやれば研究がどんな感じかは分かってきますが、精神的に成長できるかと問われれば少し疑問です。

ただ修了することで院卒という大きな称号を得ることが出来ます。

この称号がないと研究開発職につけない日本の雇用制度をどうにかして欲しいものです。 まあ実際、化学の知識は嫌でも身に尽きますが 笑

理系大学院に進学するコストパフォーマンスは感じ方次第

長々と書いてきましたが、研究室が有意義か否かは当人の感じ方次第です。「研究が凄く楽しくて賃金なんて貰わなくてもいい!」という友人も居たくらいです。

理系の学生さんは学部4年生で体験する研究が、自分にとって価値があるものかを考えることが大切だと思います。

「楽しくない」と感じたら大学院に進学せずに働き始めるのも良い選択です。広い人脈を知れば考え方も自ずと変化してきます。

一度しかない人生です。自分の判断で、自分の思ったように彩りましょう!

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