本稿では信越化学工業株式会社の有価証券報告書を紐解いて会社分析をしていきたいと思います。経営状態や組織図をざっと俯瞰し、自分が本当に目指したい会社なのかの検討に役立てて頂ければ幸いです。
信越化学工業の基礎IR情報
回次 | 第140期 | 第141期 | 第142期 | |
決算年月 | 2017年3月 | 2018年3月 | 2019年3月 | |
売上高 | (百万円) | 1,237,405 | 1,441,432 | 1,594,036 |
経常利益 | (百万円) | 242,133 | 340,308 | 415,311 |
自己資本比率 | (%) | 80.3 | 81 | 81.1 |
自己資本利益率 | (%) | 8.5 | 11.9 | 12.8 |
株価収益率 | (倍) | 23.4 | 17.6 | 12.8 |
最高株価 | (円) | 12,915 | 13,175 | 12,585 |
最低株価 | (円) | 9,131 | 7,982 | 8,014 |
営業活動によるCF | (百万円) | 290,872 | 332,776 | 400,687 |
投資活動によるCF | (百万円) | 1,281 | △237,602 | △181,553 |
財務活動によるCF | (百万円) | △37,199 | △50,006 | △164,538 |
フリーCF | (百万円) | 292153 | 95174 | 219134 |
2019年度は売上高1兆5940億円に対して経常利益4150億円。経常利益率26 %
化学企業での全体平均がここ五年間は6-8%程度(財務省発行 年次別法人企業統計調査)。営業利益オバケです。凄い利益出てる会社で10%台後半なので化学企業の常軌を逸した儲かり
方です。
セグメント別にみる売上と営業利益
セグメントの名称 | 金額(百万円) | 営業利益(百万円) | 営業利益率(%) | 主な製品 |
塩ビ・化成品事業 | 5,242 | 1065 | 20.3 | 塩化ビニル・苛性ソーダ |
シリコーン事業 | 2,333 | 585 | 25.1 | シリコーン製品 |
機能性化学品事業 | 1,211 | 266 | 22.0 | セルロース誘導体、ポバール製品 |
半導体シリコン事業 | 3,803 | 1319 | 34.7 | 純シリコンウエハ |
電子・機能材料事業 | 2,260 | 133 | 5.9 | フォトレジスト、光ファイバ用プリフォーム |
加工・商事・技術サービス事業 | 1,088 | 133 | 12.2 | 半導体ウエハー関連容器 |
合計 | 15,940 | 4038 | 25.3 | ― |
半導体シリコン、シリコーン、塩ビ化成品といった大きな売り上げ割合を占める製品が軒並み営業利益率20%を超えています。また半導体シリコーンに至っては35%と凄すぎる営業利益率です。
シリコーン製品群は自動車、電気・電子、化粧品、建築、食品など幅広い分野で重宝されている製品です。信越化学工業はこの業界で日本シェアNo1を獲得しています。
シリコーン:ケイ素にメタノールや塩化水素を加えて化学反応を加えたシリコン加工品です。形としてはゴム・オイル・樹脂など多岐にわたる製品になります。
信越化学の注目ポイント
シンテック社による塩ビ・化成品販売での高い営業利益率
塩化ビニルや苛性ソーダといった付加価値皆無の製品で凄い利益が出ている。これは日本企業らしからぬ超大規模で生産することで製品価格を落としているため。現在の能力は世界最大の300万tというモンスターっぷりです。
また塩ビは衣類や建材などの多くの部門に使われており、トランプ政権主導の米国大規模インフラ投資の恩恵を受けているので追い風といえます。
食塩水の電解で苛性ソーダと塩素が生成します
塩素は塩酸、次亜塩素酸ソーダ、液体塩素など用途がありますが、これだけでは生産量に対して需要が少なすぎです。
そこで難燃性・耐腐食性など素晴らしい性能を持つポリ塩化ビニル(PVC)の製造に全世界生産量の4割弱が利用されています。PVCはただの汎用材料ですので全世界との価格勝負になります
半導体関連事業はこれからも活況が続く
集積回路の小型化競争が激化しているため、半導体材料に不可欠なシリコンは今後も需要が伸びていきます。
半導体用途では99.999999%という高純度なシリコンが必要なので付加価値が高く、販売数が上昇すれば信越化学工業の業績も伸びます。
原材料に関して、シリコンの原材料はシリカ(SiO2)なので、身近な岩や砂すべてが原料ですので材料不足になる心配もありません。
莫大な利益とキャッシュリッチな超安定経営
自己資本比率80%越えの超安全運転で、営業CFも大幅なプラスで毎年推移しています。
また流動比率が4倍を上回っているキャッシュリッチ企業であり、現金預金だけで8300億円あります。現金をため込むことで有名な任天堂やファナックなどとも首位を争えるレベルの現金量です。
ちなみに株式も評価されており、現在の時価総額は化学企業で世界第4位。デュポンやダウなどと勝負できる位置にいます。
金川千尋氏のトップダウン経営
現在の信越化学工業を語る上で欠かせないのが現会長の金川氏です。御年90歳。
この人のワンマン経営で信越がここまで強くなりました。曰く、20年先を見据えてカントリーリスクや事業リスクをいかに最小に抑え込むか思案しながら経営を進めていったそうです。
こちらにインタビュー内容が残っているので、気になる方はこちらのインタビュー記事を読んでみてください。世界情勢や事業情報に精通している聡明な方だと感じました。
金川氏が退任した後は会社が下手をこく可能性もあるのは否めません。それほど凄い経営だったのです。
信越化学工業の直近決算
回次 | 2019年3月期 | 2020年3月期 | |
売上高 | (百万円) | 1,206,842 | 1,174,011 |
経常利益 | (百万円) | 329,403 | 330,231 |
四半期純利益 | (百万円) | 242,127 | 246,836 |
わずかに塩ビ・化成品と機能性化学事業が5%ほど売上高でマイナスになったがほぼ前年度並み。
自動車とスマートフォンが不況なため化学企業全体が利益を数十%落としている中、勢いが衰えないのはさすがの一言。今年度も前年度並みの利益を実現しそうです。
信越化学工業の就活情報
学歴ボーダーライン
技術系総合職は地方国立大学院生以上なら可能性がある。ただし基本的に旧帝大のメンツと勝負せねばならないため気張る必要がある。メイン層は旧帝以上。
選考フロー詳細
ES提出 ⇒ 適正検査受験 ⇒ 一次面接⇒ 面接数回(個人差アリ)⇒ 内々定
重要な沿革
1926年9月 | 信濃電気株式会社と日本窒素肥料株式会社との共同出資により、信越窒素肥料株式会社として発足 |
1940年3月 | 社名を信越化学工業株式会社に変更 |
1957年3月 | 直江津工場においてアセチレン法による塩化ビニル、か性ソーダの製造開始 |
1960年7月 | 磯部工場において半導体シリコンの製造開始 |
1960年7月 | 磯部工場において半導体シリコンの製造開始 |
1973年7月 | シンテックINC.(塩化ビニルの製造 現連結子会社)を米国に設立 |
2005年7月 | 直江津工場においてマスクブランクスの製造開始 |
2013年5月 | シンエツシリコーンズタイランドLtd.がアジアシリコーンズモノマーLtd.を完全子会社化 |
2015年4月 | シンテックINC.がエチレン工場(米国 ルイジアナ州)の建設を決定 |
信越化学工業の事業動向
塩ビ・化成品事業
米国のシンテック社で塩化ビニル、か性ソーダともに高水準の出荷を継続。
国内拠点は期前半の大規模定期修理の影響により、海外向けの出荷が減少した。
シリコーン事業
汎用製品、機能製品ともに価格の修正を行った。全世界での堅調な需要に対応して、最大限生産し完売した。
機能性化学品事業
セルロース誘導体は、医薬用製品が好調な出荷を続けるとともに、建材用製品及び塗料用製品も底堅く推移。フェロモン製品やポバール製品ほかも総じて堅調な出荷となった。
半導体シリコン事業
半導体シリコンは、堅調な出荷に加え製品価格の修正も寄与して業績伸長。
電子・機能材料事業
希土類磁石はハイブリッド車をはじめとする自動車向けが引き続き好調な出荷。
フォトレジスト製品はも堅調に推移。
マスクブランクスは、最先端品に加え、汎用品や先端品も販売を伸ばし好調。
光ファイバー用プリフォームは中国の合弁会社での販売は堅調さを持続。
加工・商事・技術サービス事業
信越ポリマー社の半導体ウエハー関連容器が高水準の出荷を継続して好調に推移。
信越化学工業の注目ニュース
次世代ディスプレーである「マイクロ発光ダイオード(LED)」の敷き詰め素材を開発
マイクロLEDは2021年にも商業生産が始まる見通しで、量産技術を確立して普及を後押しする目的で本素材を開発しました。
小さすぎてマイクロLEDを効率的に敷き詰められなかった問題を解決する素材です。製造効率が数十倍にアップするそう。
身近な発光ダイオードは信号機についています。あの粒をそのままマイクロレベルに小型化して敷き詰めればディスプレイになるという発想です
超小型モニターを作れるため、実用化されればウェアラブルデバイスとしてARやMR機器として利用も可能な未来の技術です
5G通信向け半導体に使う高機能のウエハーを開発
窒化ガリウム(GaN)を使う製法では大型化も容易になるとか。
GaNを使った基板はシリコン製の基板と比べて電気損失を6分の1以下に抑え、半導体の動作の安定や長寿命化に貢献するそうです。5G関連の半導体向けとして期待されています。
2020年はNTTドコモで5Gサービスが開始される年です。筆者としてはロボットでの遠隔治療や自動運転、MRが普及した未来へのスタートラインに立ったようなイメージですね。
第五世代移動通信システムの略です。5th Generationだから5Gですね。
現在の4Gから【遅延・速度・容量・大量接続】の4点すべてが大幅に強化されます。
とくに遅延と大量接続が可能なことはIoTによる自動車の自動運転化やMR技術を推し進めるために必須です。ただ一部で健康被害があると訴えられており、長期的暴露によって人体への有害性は注視する必要ありです
平均年齢・勤続年数
決算年月日 | 2015年 | 2016年 | 2017年 | 2018年 | 2019年 |
従業員数(単独) | 2,757人 | 2,800人 | 2,839人 | 2,904人 | 3,011人 |
平均年齢(単独) | 42.5歳 | 42歳 | 42.4歳 | 42.3歳 | 42.1歳 |
平均勤続年数(単独) | 20.5年 | 20.2年 | 20.3年 | 20.3年 | 20.1年 |
信越化学工業単独の従業員が増加しているものの、平均年齢や勤続年数は若干の下降がみられる。
新卒入社数が定年退職者よりも少し多い状態であり、中途採用により人数が増加していると分析した。
信越化学工業は従業員数が少なく、さすが少数精鋭を掲げるだけあります。勤続年数が20年超えと素晴らしく高く、平均年収も業界では高めですね。この人数ではなかなか仕事を回すのが大変そうです。
平均給与額の算出方法がこれといって定められていないため、各社によって”どの職責までを平均に組み入れるのか”という基準が違います。
不当に低く見せたり、不当に高く見せたり自由自在です。
特にメーカーは社員の給与が高すぎると、それをダシにして取引先からもっと製品を安く売れとか恐喝されるので各社低めに算出する傾向があります