本稿では筆者の経験から大学院に進むべきか否かの考察をしていきます。
大学院は研究が本当に好きな人なら最高の場所ですが、 そこまでのめり込めない人は行かない方が賢明かもしれません。
実際に有機化学研究室で修士を取った筆者の独断と偏見での意見です。
楽しみながら熱心に研究に打ち込んでいる方々にとっては腹立たしい内容かと思いますが、温かい目で見守っていただけますと幸いです。
この記事は研究室に入る皆さんにこそ是非読んでほしい記事です。
日本の化学系研究室が抱える深刻な問題
コアタイムは近く、真の帰宅時間は遠い
うちの研究室はコアタイムが9時間と長めでした。しかしコアタイムは居なければならない”最低ライン”であるだけで上限ラインはありません。
新しく入った学部4年生でさえ初めはコアタイムきっちりで帰宅しますが、研究室の雰囲気と業務量増加が手伝って9月や10月にはコアタイムには帰れない子たちが続出します。
先輩が誰も帰らない手前、めちゃくちゃ帰りにくいのです。
論文を読む・研究を進めるなどなど、やろうと思えばタスクは幾らでもあるのでダラダラと研究室に居残ることになります。
授業料を払って研究室で研究する(労働する)
上記のタイトルに対して研究と労働の読み替えは面白いところです。
「研究」と捉える方は現在の研究にハマっていて、研究=趣味となっている状態の人かと愚考します。
授業料を払って研究をしているのは、さながらお金を払って研究というスポーツをプロに習っているような感覚でしょうか。実に楽しそうですね。
「労働」と捉える方は研究にあまり没頭していなくて、研究=義務となっている状態の人だと思います。
授業料を払って研究をしているのは、さながら無償で毎日フルタイムのボランティアを行っている感覚でしょうか。実に時間の無駄ですね。
違いは一目瞭然。真に自分の時間を割いて研究をやりたいか否かです。
筆者は残念ながら「労働」と捉えてしまう人間でした。
社会では仕事をすれば対価が貰えるのが当たり前です。
貴重な自分の時間を利用して他者の目的のために力を貸すのですから自分にも利益がなければ務まりません。善意で飯は食えないのです。
では研究室で一日十何時間も時間を使って研究することの対価はなんでしょうか。同じ質問を何人かの同期にすると「有名な教授と共に研究できること」「研究室の備品をタダで使わせてもらってること」「いい企業に就職するため」など様々な回答をいただくことが出来ました。
これらの意見を工程や否定といった吟味をするつもりは全くありません。授業料というお金を払って上記に挙がったような対価を得ることを了承した者のみが院生になっているのです。
筆者のように不当な待遇などと叫んでも仕方ないでしょう。今更です。
触れられる世界と人脈が狭い
研究した成果を携えて学会に出て発表するのは話に聞いた分には楽しそうです。
筆者も研究という未知の舞台はとてつもなく奥が深くて凄そうで、触れてみたいと思ったのを覚えています。
実際にやってみると途轍もなく奥が深いです。でも狭いです。
研究そのものも現在のテーマをひたすら突き進めていくので、意図的に興味を持って勉強しなければ専門知識が大きく偏ってしまいます。
学会では学生や教授間の交流がメインであって、研究という枠組みからは逸脱できません。
少なくとも筆者は何度も学会に足を運んでいますが企業の人間と交流を持ったことは殆どありませんでした。
この何が問題かというと、全く新しい視点を持つ目上の人と話す機会、ビジネス上のキャッシュフローを学ぶ機会を喪失することです。
筆者は働いて色々な人と関わることで劇的に立ち居振る舞いやマインドが変化しました。
マインドが変わると人生が変わります。研究室という閉じた環境では新たな人との出会いはなかなか期待できないため、休日などに自分から積極的に社会と関わることが大事です。
教授が支配する研究室では学生は「労働者」でないため、世間一般の”法律”が通用しない
ブラック研究室は企業ではないため、そこにいるのは学生であって労働者ではない。従って労働者を違法労働から守ってくれる法律の数々が全く機能しません。
コアタイム・卒業の可否・研究費の使い道などの全ては教授の一存なのです。
はっきりいって独裁もいいところです。女子だけを自身の居室で働かせるなどのセクハラや罵詈雑言を浴びせるパワハラも思いのまま。教授にとってのユートピアがそこにあります。
教授の人柄が研究室選びにおいて最も重視するべき要素である所以はこれです。
教授の人柄を見誤らないで研究室を選択する方法についてはこちらの記事で詳しく説明しております。
自分が研究室で楽しめそうかを見定める
その学生にとって研究という行為が、ゲームやスポーツのような”お金を払ってでもやり込みたい面白い趣味”ならば研究室はすばらしい場所だと思います。そういう感覚をお持ちであれば研究室でドクターまで出ることをお勧めします。
ただ不満を感じているなら流されて大学院を受ける前に、自分の将来についてよくよく考えたほうがいいです。そのまま大学院に行くと人生で最も大事な時期の膨大な時間を無駄にしてしまいます。
筆者は親の影響で”進学するのが当たり前”で凝り固まっていたため、そのまま思考ゼロで進学しました。将来的にどうなっていたいのかを考えて行動するための分水嶺かと思います。しっかりと時間を取って考えるのも重要かと思います。
進学を決めたら
進学もやりたい分野もなんとなく決めた! という方は先輩や友達に聞きまくっていい研究室をリサーチしてみてください。研究室はホワイトからブラックまで玉石混交です。「上手く研究室情報を引き出す方法」や「筆者が思う”良い研究室”の」を以下の記事で纏めているのでご参考になれば幸いです。
理系での研究室選びの関連記事