本稿では富士フイルム株式会社のIRを紐解いてをしていきたいと思います。経営状態や組織図をざっと俯瞰し、採用面接や企業選びに役立てて頂ければ幸いです。
富士フイルムHDの基礎IR情報
回次 | 第121期 | 第122期 | 第123期 | |
決算年月 | 2017年3月 | 2018年3月 | 2019年3月 | |
売上高 | (百万円) | 2,322,163 | 2,433,365 | 2,431,489 |
当期純利益 | (百万円) | 194,775 | 197,807 | 212,762 |
株主資本比率 | (%) | 57.8 | 59.5 | 59.7 |
営業活動によるCF | (百万円) | 288,619 | 261,152 | 249,343 |
投資活動によるCF | (百万円) | △116,439 | △111,786 | △208,585 |
財務活動によるCF | (百万円) | 111,290 | △258,961 | △153,522 |
フリーCF | (百万円) | 399,909 | 2,191 | 95,821 |
2019年度は売上高2兆4300億円に対して純利益2128億円 純利益率9.4% 付表には書いていませんが営業利益は10.1%です。M&Aを繰り返して肥えた巨大企業にしては随分と営業利益が高いな、という印象です。
売上規模としては化学系企業で国内2位につけています。海外をみれば化学メーカー首位の売上高7兆円に迫るBASFや5兆円のDowなどと差はありますが、世界に誇れる日本企業だと考えていいでしょう。
化学企業での全体平均が直近五年は6-8%程度(財務省発行 年次別法人企業統計調査)。営業利益で10%近く出ているので基本的な稼ぐ力は高い水準にある企業です。
ちなみに単体でも営業利益730億円あります。いわゆる事業持ち株会社というヤツです。富士フイルム株式会社は2006年に富士写真フイルム株式会社の事業を継承して事業を続ける事業持株会社です
株価的な視点での分析
セグメント | 前第1四半期連結累計期間(百万円) | 当第1四半期連結累計期間(百万円) | 増減率(%) |
イメージング ソリューション | 74,636 | 49,839 | △33.2 |
ヘルスケア&マテリアルズソリューション | 227,626 | 217,057 | △4.6 |
ドキュメント ソリューション | 233,064 | 189,374 | △18.7 |
連結合計 | 535,326 | 456,270 | △14.8 |
最新の1Qではコロナの影響を受けて連結決算が軒並み低調です。
イメージングやドキュメントといった部門は在宅ワークによって落ち目のプリンターインクやプリンター印刷、映像事業をコアにしているため低調です。
ヘルスケア・マテリアル部門ではコロナ治療薬の期待がかかるアビガン、コロナによって再生医療系やバイオ系の受注が増えました。この部門だけは売上低減が殆どなく元気でした。
HDとしての財務をみると、フリーCFが基本的にプラスであり、営業CFもプラスなので資金繰りは問題ありません。自己資本比率も60%と理想的な水準にあり、コロナ禍においても比較的経営は安定しています。さすが富士フイルム。
富士フィルムHDってこんな会社!
フィルム事業に先細りを感じていたため医薬系や化粧品、磁気テープなどに多角化。現在はカメラ関連ではフィルム事業は殆ど撤退しており、自社でカメラレンズやイメージセンサーなどの開発・販売、およびデジタルカメラの販売をメインに据えています。
医薬系事業では、X線画像診断、医療IT、内視鏡、超音波、体外診断(IVD)等の医療装置販売と医療用システムの販売も行っている。各種炎症反応を抑える医薬品の販売や、DDSによるガン免疫療法の研究開発も行っています。
また医薬品だけでなく、各国の有力企業をm&Aして製造受託も行っている。アスタリスクに代表される化粧品だけでなく、ディスプレイ用の機能性フィルム、電子材料用の洗浄剤やフォトリソグラフィ用材料、印刷用のインクジェットヘッドの販売など多岐に事業展開しています。書ききれません。
正式社名は「富士フイルム」。面接時に間違えると社員に嫌な顔をされるので注意したいポイントです。
企業の成り立ち
1934年に国産工業化計画(国策)によって大日本セルロイドから切り離した写真フィルム製造業が富士フィルムの原型です。ちなみに大日本セルロイドって現在のダイセル株式会社です。生み出した親よりも随分とおっきくなりました。。
また発展途中の1962年に出来た富士ゼロックス株式会社は英国のランクゼロックス社と富士フイルムの共同出資によって誕生したのでこの名前です。ちなみにランクゼロックス社は米ゼロックス社のイギリス現地法人です。
子会社は富士フィルムイメージングシステムズや富士ゼロックスをはじめとして多すぎるので割愛します。2006年に富士フイルムHDという事業持ち株会社として再出発しました。
持ち株会社のメリット
・事業の買収や売却などで整理が簡単に行え
・グループとしての意思決定が簡単になる
・規模が大きいので買収対策になる
今でこそ〇〇HDは一般的になりましたが、日本では1997年まで独禁法により「自由な競争の妨げになる」として純粋持株会社の設立は禁止されていました。
富士フィルムの場合は事業持ち株会社のため法改正の前から合法でした。
HD単独の財務をみるときのポイント
事業持ち株会社の場合は自社の事業による収入があります。そこに傘下企業からの配当収入が入ってきます。
営業利益は文字通り営業活動で得た利益なので、ここに記載されるのは事業持株会社が自力で稼いだお金の額です。営業利益に営業外収益として子会社から入ってきた配当金が加算した額を経常利益と言います。
したがってHD企業単体では経常利益が異様に高くなります。
またHD制を採用していない企業でも事業譲渡などで特別益が発生した場合も経常利益が高まります。つまり会社の稼ぐ力を見るためには「営業利益」みる必要があります。
富士フイルムのセグメント分析
カメラやイメージセンサを主軸とした売上のイメージングソリューション事業が最も営業利益率が高いです。
富士フイルム自身も「ヘルスケア&マテリアルソリューション事業」と「ドキュメントソリューション事業」で営業利益率を高める必要性があると考えているようで、二領域に関して以下の対策をうちだしています。
ヘルスケア・高機能材料領域の事業成長の強化
ヘルスケア領域では、メディカルシステム事業、バイオCDMO事業が売上成長を牽引し、増収・増益を確保します。
ドキュメント事業の抜本的強化
ドキュメント事業は、「Smart Work Innovation」コンセプトのもと、独自のAI技術とIoT・IoH(Internet of Humans)技術を活用し、多様化する働き方を支援する新しいソリューションやサービスを順次提供するとともに、事業成長をリードします。
富士フィルムHDの注目ポイント
M&Aによる規模拡大と徹底的なシナジー創出
本業であるイメージソリューション事業では効率的に売り上げを出しています。しかしM&Aでくっ付けた企業たちが少し足を引っ張っているようなイメージでしょうか。
それでも平均して営業利益10%に到達するのは、どんな経営をしているのかと疑問を呈すほどです。信越のように息の掛かる子会社を増やしての事業拡大なら話は分かりますが、M&Aを繰り返しての事業拡大でこんな利益率になる会社を見たことがありません。
よく聞く噂通りにブラック体質で人件費を削減しているというのも、これを見る限り嘘ではないかな……と思えてきます。
しかし転職会議やopen workの評価や口コミを見る限りだと労働待遇は悪くないようです。上手く大企業としての権益を利用して、下請けに値段交渉して利益確保してるのかも。下請法はありつつ大企業のあるあるですからね。
とにかく経営が上手い会社だなという印象です。
2000年から始めた主力製品の劇的な改革
富士フイルムという名前だけど写真フイルム事業はもう殆どやっていません。2000年を100とすると写真フィルム市場はいまや3くらいに縮小してしまったからです。要は危機のデジタル化によって存亡の危機を迎えたわけですね。
富士フイルムはこれまで築いた写真フィルム事業を捨てて、化粧品や医薬品などの未知領域へと事業の主軸を転換することにしました。元々コダックという会社が圧倒的なシェアを誇っていて、ずっと一位を取れなかったから踏ん切りがついたのかも。
全く知らない領域なので詳しい会社をM&Aするのが事業展開への近道! なので富士フイルムはM&Aをしまくって色々な知識や情報を蓄えていきました。事業拡大の際にロゴから「FUJI」マークを外したのも決意の表れですね。ただ名前は変わっていないので、何が主軸の会社か分からないところが玉に瑕といえるでしょう。
財務には全く問題なし
営業活動で常に10%ほどの営業利益を上げており、フリーCFも常にプラスと収益基盤は盤石です。またM&Aや設備投資も積極的に行っていて、規模拡大していこうという意思が見えます。
自己資本比率も理想的といわれる60%であり、流動比率も240%と安心安全ですね。就職先として欠片も心配はいらないので安心して就職してください(あ、リストラとかは知りませんよ 笑)
海外の重要な契約項目
富士フイルム富山化学㈱(連結子会社) | Merck Sharp & Dohme Corp.(注)(米国) | ニュータイプのキノロン系抗菌薬「T-3811」の特許及びノウハウについての実施契約並びにバルク供給契約 | 2004年6月22日から |
同上 | MSD International Holdings GmbH (注)(スイス) | 同上 | 対象特許の満了日まで |
国内の重要な契約項目
契約会社名 | 相手方の名称 | 契約内容 | 契約期間 |
富士ゼロックス㈱(連結子会社) | Xerox Corporation(米国) | ゼログラフィー製品及びその他の製品に関する技術・商標等のクロスライセンス | 2016年4月1日から2021年3月31日まで |
富士フイルムの就活情報
学歴ボーダーライン
技術系総合職は地方国立大学院生以上なら狙える。旧帝大のメンツが内定者の半数以上を占めるため少し気張る必要がある。メイン層は旧帝大学院生以上。
選考フロー
履歴書・ES提出⇒ウェブ適性試験 ⇒ テストセンターでの適性検査受験⇒ 一次面接 ⇒ 二次面接 ⇒ 最終面接 ⇒ 内々定
簡略化した沿革
1934年1月 | 写真フィルム製造の国産工業化計画に基づき大日本セルロイド㈱(現 ㈱ダイセル)の写真フィルム部の事業一切を分離継承して富士写真フイルム㈱を設立。 |
1934年2月 | 足柄工場(現 神奈川工場)建設(写真フィルム、印画紙等の写真感光材料の製造)。 |
1938年6月 | 小田原工場(現 神奈川工場)建設(写真感光材料の硝酸銀、色素等の高度化成品部門並びに光学硝子、写真機等の精密光学機器・材料部門の拡充)。 |
1962年2月 | 英国ランクゼロックス社との合弁により富士ゼロックス㈱を設立。(現 連結子会社) |
2001年3月 | 富士ゼロックス㈱の発行済株式総数の25%を追加取得し、連結子会社化。 |
2006年10月 | 全ての営業を富士フイルム㈱に承継する新設分割を行い、持株会社である富士フイルムホールディングス㈱に移行。 |
2008年3月 | 富山化学工業㈱の株式を公開買付けにより取得し、連結子会社化。 |
2011年3月 | MSD Biologics (UK) Limited及びDiosynth RTP LLCを買収。 |
2012年3月 | SonoSite, Inc.を買収。(現 連結子会社 FUJIFILM SonoSite, Inc.) |
2014年12月 | ㈱ジャパン・ティッシュ・エンジニアリングの株式を新株予約権の行使により追加取得し、連結子会社化。 |
2015年5月 | Cellular Dynamics International, Inc.を買収。 |
2017年4月 | 和光純薬工業㈱の株式を公開買付けにより取得し、連結子会社化。 |
2018年6月 | Irvine Scientific Sales Company, Inc.を買収。 |
主要事業の最新動向
「イメージング ソリューション部門」
・インスタントカメラ・写真サービス関連
写真をスタイリッシュなインテリアとして壁に飾って楽しめる「WALL DECOR(ウォールデコ)」の販売が好調に推移
写真クラウドサービス「FUJIFILM PhotoBank(フォトバンク)」も好調に推移。これは写真の共有やプリント注文に加え、2020年初頭には、保存した写真からAIがユーザーの嗜好性を推測し、興味に合った製品等が購入できるサービス。
・デジタルカメラおよびレンズ関連
高速・高精度のオートフォーカス機能と、高い動画性能を搭載した「FUJIFILM X-T3」や、2019年3月に発売した小型軽量・高性能「FUJIFILM X-T30」の販売が好調に推移
車載用など各種産業用レンズを中心に販売が堅調に推移しました。2019年2月に「FUJINON レンズ」の光学技術を結集した「FUJIFILM PROJECTOR Z5000」を発表し、プロジェクター市場へ新たに参入
「ヘルスケア&マテリアルズ ソリューション部門」
・X線画像診断分野と医療IT関連
軽量・小型で、在宅医療等、スペースが限られた場所での簡便なX線検査をサポートする携帯型X線撮影装置「CALNEO Xair(カルネオ エックスエアー)」の販売を2018年10月より日本国内で開始
医用画像情報システム(PACS)「SYNAPSE」を中心としたシステムの販売が日本・米国を中心に好調に推移
内視鏡分野当社独自の特殊光観察が可能な7000システム等の販売が好調に推移
超音波診断分野では、フルフラット型超音波画像診断装置「SonoSite SⅡ」や携帯型超音波画像診断装置「SonoSite EdgeⅡ」等の販売が好調に推移
体外診断(IVD)分野は、血液検査システム「ドライケムシリーズ」の販売が好調に推移
・医薬品分野関連
関連会社である協和キリン富士フイルムバイオロジクス㈱が、2018年9月に欧州委員会からヒト型TNF-αモノクローナル抗体製剤「アダリムマブ」のバイオシミラー医薬品「Hulio®」の医薬品販売承認を取得し、販売提携先であるMylan社を通じて欧州での販売を開始しました。
また、一包化された薬剤の名称と数量を自動的に判定し、調剤薬局等での薬剤師の監査業務をサポートする一包化監査支援システム「PROOFIT 1D」の販売を2019年1月より開始
・再生医療分野関連
2018年6月に連結子会社化した、培地のリーディングカンパニーであるIrvine Scientific Sales Company,Inc.(現FUJIFILM Irvine Scientific,Inc.)が展開するバイオ医薬品向けの培地販売が好調に推移
米国子会社FUJIFILM Cellular Dynamics,Inc.は、2019年1月より、アルツハイマー型認知症等の神経疾患領域において、ヒト生体に近い環境で新薬の評価が可能な創薬支援用iPS細胞由来分化細胞「iCell® Microglia(アイセル ミクログリア)」の販売を開始
・化粧品関連
2019年3月に、アスタリフトシリーズで最も高い紫外線カット効果を持つ「アスタリフト D-UVクリア ホワイトソリューション」、美容効果をさらに強化しリニューアルした「アスタリフト ホワイト エッセンス インフィルト」の販売開始
サプリメントではメタバリアシリーズを中心に販売が堅調に推移
・ディスプレイ関連
TAC製品に加えて、有機EL、及びタッチパネル分野の製品販売が堅調に推移し、売上が増加しました。
・産業機材関連
タッチパネル用センサーフィルム「エクスクリア」の販売好調に加えて、圧力測定フィルム「プレスケール」の販売も堅調に推移
・電子材料関連
先端フォトリソ周辺材料、CMPスラリー、イメージセンサー用カラーモザイク、先端パッケージ用ポリイミド等の販売が引き続き好調に推移
・ファインケミカル関連
ライフサイエンス分野における研究機関向け試薬販売や、検査・分析等の受託サービスが堅調に推移
・グラフィックシステム関連
2019年3月に商業印刷向けインクジェットデジタルプレス「Jet Press」シリーズの新ラインアップとして「Jet Press 750S」の販売を開始。
・インクジェット関連
これまで注力してきた商業印刷分野、サインディスプレー分野に加え、テキスタイルやパッケージ等、新たな領域へ独自の製品を展開
「ドキュメント ソリューション部門」
・オフィスプロダクト&プリンター関連
2018年12月にセキュリティ機能を強化したカラー複合機「ApeosPort-Ⅶ C / DocuCentre-Ⅶ C」シリーズの販売が堅調に推移
・プロダクションサービス事業
全体の販売台数は対前年で減少したが、カラー・オンデマンド・パブリッシング機「IridesseTM Production Press」の販売が欧米を中心に好調
知っておくべきニュース
2019年3月にBiogen (Denmark) Manufacturing ApSの買収
バイオ医薬品大手Biogen Incの製造子会社であるBiogen (Denmark) の買収手続きを、8月1日(欧州時間)に約890百万米ドルで完了。
バイオ医薬品の開発・製造受託事業をさらに拡大することになった。
Biogen (Denmark) Manufacturing ApSはシングルユース仕様の2,000リットル動物細胞培養タンク、最先端モバイルクリーンルームなど、少量・中量生産に最適な既存の製造設備に加えて大量生産設備も導入。
生産能力を大幅に向上させるとともに、少量から大量までの幅広い受託ニーズに迅速に対応できる体制を構築した。
また、同社が行っていた、バイオジェン社などからのバイオ医薬品の製造受託も獲得。
今後の目標は需要が高まっている抗体医薬品やホルモン製剤、ワクチンから、新たな治療法として注目され市場成長が見込まれる遺伝子治療薬まであらゆる種類のバイオ医薬品の生産プロセスを開発し、少量生産から大量生産、原薬製造から製剤化まで受託できる強みを活かしていく。
目標は2021年度にバイオCDMO事業(*3)で1,000億円の売上。
コロナウイルス治療薬としてアビガンを増産発表
これまで月4万人分強だった生産量を、7月に約2.5倍の約10万人分、9月には約7倍の約30万人分に引き上げます。新型コロナの感染終息が見通せない中で需要が高まっています。アビガンはもともと富士フイルム富山化学が開発した抗インフルエンザ治療薬です。
アビガンは注意すべき特殊な薬
第二のサリドマイド薬害になりかねないかも
2020年現在、日本でアビガンの使用認可は降りていないため、医師の裁量の元でしか使用できません。まともに認可を待つと数年は掛かるのでやむなく利用されているのが実情です
平均年齢・勤続年数
平均年齢(単独) | 44.5歳 | 43.6歳 | 42.3歳 | 42.7歳 | 42.7歳 |
平均勤続年数(単独) | 20.2年 | 19.1年 | 17.7年 | 17.8年 | 17.8年 |
平均年収(単独) | 1076万円 | 1070万円 | 1046万円 | 971万円 | 997万円 |
持ち株会社なので、この表に載っているのは30代後半から60歳くらいまでの上位管理職の人間だけの給料ということになります。
平社員は傘下の富士フイルムや富士ゼロックスなどで頑張っているので。一応は載せましたが、正直いって何の参考にもなりません。ああ上位役職がつくとこれくらいの年収なんだな、ぐらいに見ておきましょう。