本稿では日本触媒株式会社のIRを紐解いていきたいと思います。経営状態や組織図をざっと俯瞰し、採用面接や企業選びに役立てて頂ければ幸いです。
日本触媒の基礎IR情報
回次 | 第105期 | 第106期 | 第107期 | |
決算年月 | 2017年3月 | 2018年3月 | 2019年3月 | |
売上高 | (百万円) | 293,970 | 322,801 | 349,678 |
経常利益 | (百万円) | 24,664 | 32,293 | 33,101 |
当期純利益 | (百万円) | 19,361 | 24,280 | 25,012 |
自己資本比率 | (%) | 66.6 | 65.7 | 68.5 |
自己資本利益率 | (%) | 6.8 | 8.1 | 7.9 |
営業CF | (百万円) | 37,474 | 38,823 | 31,213 |
投資CF | (百万円) | △44,515 | △27,498 | △27,143 |
財務CF | (百万円) | △3,533 | △9,762 | △9,593 |
フリーCF | (百万円) | -7041 | 11325 | 4070 |
2019年度は売上高3497億円に対して経常利益331億円。経常利益率9.4%
化学企業での全体平均がここ五年間は6-8%程度(財務省発行 年次別法人企業統計調査)。経常利益は高い水準にある良い会社です。
ちなみに単体で売上2300億円で経常利益262億円です。実は本体は経常利益率10%を超えており、子会社が経常利益を押し下げています。ここ5年で売上の伸びが見られず苦戦してますね
フリーCFが基本的にプラスであり、営業CFもプラスなので資金繰りは問題ありません。自己資本比率も68%と高めで経営は安定しています
日本触媒ってこんな会社!
アクリル酸やエチレングリコールなどの製品のモノマー原料の製造販売、および粘着剤やポリマー樹脂のペレットなどの原料に機能を持たせた加工品を扱っています
サブ的な事業として自動車用触媒に使われる化学品を扱っています
子会社に日宝化学株式会社(67.8%)、日本乳化剤株式会社(100%子会社)
2020年には三洋化学工業との共同出資によりSynfomix株式会社という純粋持ち株会社を設立して完全子会社となる予定です。
要はSynfomixホールディングスになるということです。
しかし、4月15日に Synfomix株式会社の設立が半年延期されました。原油価格が不安定になり、今後の見通しが立ちにくくなったのが原因のようです。
持ち株会社のメリット
今でこそ〇〇HDは一般的になりましたが、日本では1997年まで独禁法により「自由な競争の妨げになる」として純粋持株会社の設立は禁止されていました。
改正された現在では比較自由に持ち株会社を設立できるようになりました(それでも過度な事業集中がないかは監視されます)
持ち株会社の4つのメリット
・事業の買収や売却などで整理が簡単に行える
・グループとしての意思決定が簡単になる
・親会社の労働条件に子会社が引きずられない
・規模が大きいので買収対策になる
製品製造の上流を担っている
日本触媒の扱う製品は最終製品から遠い上流寄りであるため、下記の力がモノを言います
・(汎用化成品)スケールメリットを生かした低価格品の製造販売
・(機能性化学品)他社の追随を許さない独自の機能製品の製造販売
汎用化成品ではスケールメリットのない日本企業の製品だと利益率は5%以下になりがちです。世界最大規模で製造しないと海外の安価品に負けちゃいがちということです。
だから売上に占める基礎品が多い会社は、自社の原料を使っていかに価値を付与するかの研究が大切です。研究開発者が日々新素材の研究に邁進するのは、付加価値を付けることで利益が何倍にも膨れるからです
日本触媒の事業構成
セグメントの名称 | 売上金額 (百万円) | 営業利益 (百万円) | 営業利益率(%) |
基礎化学品事業 | 139,210 | 10,709 | 7.7 |
機能性化学品事業 | 189,642 | 13,394 | 7.1 |
環境・触媒事業 | 10,017 | 916 | 9.1 |
合計 | 338,869 | 25,019 | 7.4 |
触媒事業も含めると、利益の出せる機能性材料が売上の7割を占めており、残り3割は原料販売です。機能性材料を創り出す技術力があるのでしょう。
もし汎用化成品で利益が出なくなっても、持ち前の研究力で機能性材料に全力を投じることで窮地から脱せると予想します。
汎用化成品の全供給を海外からの輸入に頼っている企業の場合は、原料の高騰などのリスクが付き纏います。日本触媒のリスク分散具合は最適な配分だと感じました。
アクリル酸は危険がいっぱい
日本触媒はもともとアクリル酸や酸化エチレンなどを源流として高吸水ポリマーなどの高機能材料に派生させた企業です。推しの技術はもちろんポリアクリル酸ナトリウムの製造技術です。
アクリル酸 : CH2=CHCOOH
さて上記のアクリル酸ナトリウムは何もしなくても空気中の酸素でラジカル重合を開始して樹脂になってしまいます。この重合時の熱で連鎖的に重合が進んで爆発事故などが起きてしまいます。非常に厄介な物質です。
工場では重合禁止剤を添加して反応が起こらないように製造されますが、ダウ、BASFなどの名だたる工場が爆発事故を起こしています。
世界シェアNo1である日本触媒においても過去に2回爆発事故を起こしています。新しいものは2012年であり、製造設備ではなく貯蔵タンクが爆発しました。当時は負傷者とともに死亡者が1名発生しました。いかに管理が難しい製品化が分かります。
アクリル酸のポリマーはどうして給水するの?
紙おむつに代表される給水剤がこのポリアクリル酸ナトリウムです。スポンジみたいな網目状に分子が架橋し、その網目一つ一つにCOO-Na+の形の分子がぶら下がっています。樹脂全体でみると、ナトリウムイオンがとても多いので浸透圧によって外部の水を取り込むためです。
ちなみに樹脂重さの数百倍の体積の水を吸収できるようです。
気になる人は下記のリンクを閲覧してみてください。三洋化学工業のリンクですが、もうすぐ一つのグループ企業になるので大丈夫です。なにが。。
日本触媒の注目ポイント
機能性化学品部門での営業利益率が低め
新規事業ターゲットはいずれも情報やエネルギーなどの高利益率を見込める製品群です。機能性化学品事業での売上と利益率の底上げを図っていることが分かります
(イ) 情報ネットワーク事業分野 (半導体、イメージング)
(ロ) ライフサイエンス事業分野 (医薬品、ヘルスケア、化粧品)
(ハ) エネルギー・資源事業分野 (モビリティ、エネルギー変換、水)
アクリル酸樹脂製造技術を各国の製造者にライセンス提供
日本触媒が開発したアクリル酸の吸水性樹脂が上市されてから、P&Gや花王といった現在のおむつメーカーが、紙おむつに転用できないかと考えたのが市場開拓の始まりです。
元祖である日本触媒の製造プロセスは優位性が高く、韓国・シンガポール・中国・アメリカなど各国でライセンス生産されています。
高吸水性樹脂は今後も高い成長が続く
布おむつが主流だったのが、ディスポ性に優れた紙おむつの登場で一気にベストセラーになり、右肩上がりに消費量は伸び続けています。
世界全体でみたら人口は増え続けているので世界の赤ちゃん人口もどんどん増えており、今後も紙おむつ市場は数%レベルでの需要の伸びが期待されます。
ROE 8%だが自己資本比率 70%にしては大したもの
自己資本が多いためROEとしては低めになりやすいです。自己株式を買い入れて自己資本を少なくすればROE 13%ぐらいには見せられますね。 また流動比率は200%以上あり、フリーCFもプラスで推移しているため経営には一切問題なしと判断します。
ここ3年は設備投資にも力を入れています。
主力になる機能性化学品事業は営業利益額以上の資金を投入しており、姫路工場に吸水性樹脂製造ラインの改造を行っています。こちらの改造はつい数か月前に終わったため、さらなる増産が期待できます。
直近の決算から見る日本触媒
回次 | 第121期 | 第122期 | |
会計期間 | 2018年1~3Q | 2019年1~3Q | |
売上高 | (百万円) | 258,903 | 227,105 |
経常利益 | (百万円) | 25,592 | 13,766 |
当期純利益 | (百万円) | 14,814 | 7,914 |
売上高は前年同期比大幅減。その理由は以下のような市況の低迷
・(機能性化学品)原料価格低下による製品価格低下
海外売上高は47% 為替リスク注意
基軸通貨として採用されている日本・アメリカ・スイスなどは「円安株高」or「円高株安」になりやすいです。これまでは前者で経済が上向いていました。逆に後者では、経済が低迷している上に円高なので為替によって円換算利益がどんどん削られます。
コロナウイルスと東京オリンピック延期のダブルパンチにより急速な不況が進み、2012年の1ドル=80円時代の到来も容易に予想できます。ここから企業にとって厳しい時代になっていくでしょう。
日本触媒の就活情報
学歴ボーダーライン
技術系総合職は旧帝大以上を中心として地方国立大学院生以上なら狙える。旧帝大のメンツが内定者の半数を占めるため少し気張る必要がある。
選考フロー
ES提出 ⇒ 会社説明か⇒ 適性検査 ⇒ 面接 ⇒ 内々定
※詳細な体験談はなし
簡略化した沿革
1941年8月 | ヲサメ合成化学工業株式会社設立。(現株式会社日本触媒 設立日:8月21日、本社:大阪市、資本金18万円) |
1945年6月 | 戦災によって本社工場を焼失し、本社を吹田工場所在地(吹田市)に移転。 |
1949年4月 | 社名を「日本触媒化学工業株式会社」に変更。 |
1952年9月 | 無水マレイン酸の製造を開始。 |
1956年11月 | 東京証券取引所市場第一部に上場。 |
1959年6月 | 川崎市に川崎工場(現川崎製造所千鳥工場)を設置し、酸化エチレン、エチレングリコールの製造を開始。 |
1971年9月 | 日本ポリマー工業株式会社を設立。(現連結子会社) |
1972年10月 | 川崎第二工場(現川崎製造所浮島工場)でセカンダリーアルコールエトキシレートの製造を開始。 |
1982年9月 | 姫路製造所でメタクリル酸及びメタクリル酸エステルの製造を開始。 |
1985年4月 | 姫路製造所で高吸水性樹脂の製造を開始。 |
1988年1月 | エヌエイ・インダストリーズ Inc.(米国)を設立。(現ニッポンショクバイ・アメリカ・インダストリーズ Inc. 現連結子会社) |
1991年6月 | 社名を「株式会社日本触媒」に変更。 |
2002年3月 | 住友化学工業株式会社(現住友化学株式会社)との事業交換により、同社のアクリル酸事業を譲受け、当社のメチルメタクリレートモノマー事業を同社に譲渡。 |
2014年12月 | 吹田工場を閉鎖。 |
2017年3月 | シラス,Inc.(米国)を子会社化。(現連結子会社) |
知っておくべきニュース
2019年9月 東大初創薬ベンチャーTAK Circulaterへ増資
TAK Circulaterは細菌類の委託分析を事業とするベンチャーです。彼らは難治重症喘息への治療薬開発のパートナーを募集しています。日本触媒は第三者割当増資を引き受け、持ち株比率を21%から35%に引き上げました。
医薬品事業は当たれば特大の収益を生みますが、殆どが失敗に終わるのでなかなかにリスキーですね。中小製薬企業はMSワラントを刷って資金調達してはお金を食いつぶすイメージがあり、宝くじみたいな印象です。
20年3月連結決算で純利益60%減に下方修正
酸化エチレンが中国の景気減速により下振れ。またおむつ材料の高吸水性ポリマー(SAP)も需給が悪化して純利益は当初計画の60%減である95億円になる見通し。
新電池「カーボン―亜鉛ハイブリッド蓄電池」の量産を計画
日本触媒は一般の鉛蓄電池比で100倍の長寿命を実現した「カーボン―亜鉛ハイブリッド蓄電池」を開発、早期実用化を目指しています。
また経営統合する三洋化成の子会社APBが2021年に新型リチウムイオン二次電池「全樹脂電池」の量産を計画しています。
経営統合で両社が垣根を越えて技術協力できれば、競合に打ち勝てる改良を素早く施し、数千億円という市場を牛耳る可能性があります。要チェックです。
平均年齢・勤続年数
従業員数(単独) | 2,141人 | 2,163人 | 2,207人 | 2,253人 | 2,306人 |
平均年齢(単独) | 37.8歳 | 37.5歳 | 37.9歳 | 37.8歳 | 38歳 |
平均勤続年数(単独) | 15.8年 | 15.5年 | 16.1年 | 16年 | 16.1年 |
従業員数のみ5年間で1割増。好景気のお陰で新卒入社数が定年退職者より増えたのかと思いきや平均年齢は変化がない。定年退職者を中途採用で埋めている可能性もある。
平均給与・勤続年数
従業員数(名) | 平均年齢(歳) | 平均勤続年数(年) | 平均年間給与(千円) |
2,306 | 38.03 | 16.05 | 7,972 |
日本触媒は売上に対して従業員数は少なめです。人員数はその会社がどれくらい効率化しているかがわかります。人数が無駄に多い会社は機械や体勢が古くて効率化できていないことが多い反面、人手が多いので楽ができる可能性もあります。まあ部署しだいですが。
平均年齢が38歳と大企業の平均くらいです。勤続年数がも16年なので少しブラックよりな部署があって人が辞めやすいとこもあるのかなと思います。平均給与も業界では高めですね。大手化学メーカだと普通から少し高めといった水準です。
各社によって”どの職種を平均に組み入れるのか”という基準が違います。つまり不当に低く見せたり、不当に高く見せたり自由自在です
特にメーカーは社員の給与が高すぎると、それをダシにして取引先からもっと製品を安く売れとか恐喝されるので各社低めに算出する傾向があります