本稿では株式会社ADEKAのIRを紐解いていきます。経営状態や組織図をざっと俯瞰し、採用面接や企業選びに役立てて頂ければ幸いです。
元々は旭電化工業という企業で、海水を電気分解して塩素と水酸化ナトリウムを作っていた会社です。そこから日本農薬を切り離して食品・化学品事業へと邁進したのが株式会社ADEKAです。
もともと古川グループの会社で、すでに創立100年を超えています。今年に日本農薬を取り込みましたが、まさか自分で昭和初期に切り離した日本農薬をまたくっつける日がくるとは思わなかったでしょう。
ADEKAの基礎IR情報
回次 | 第156期 | 第157期 | 第158期 | |
決算年月 | 2018年3月 | 2019年3月 | 2020年3月 | |
売上高 | (百万円) | 239,612 | 299,354 | 304,131 |
経常利益 | (百万円) | 22,337 | 26,602 | 21,976 |
当期純利益 | (百万円) | 15,346 | 17,055 | 15,216 |
包括利益 | (百万円) | 21,309 | 14,208 | 11,632 |
純資産額 | (百万円) | 205,088 | 244,500 | 250,634 |
総資産額 | (百万円) | 312,152 | 414,549 | 409,452 |
自己資本比率 | (%) | 62.99 | 49.35 | 51.35 |
自己資本利益率 | (%) | 8.15 | 8.5 | 7.34 |
株価収益率 | (倍) | 12.86 | 9.79 | 9.15 |
営業活動によるCF | (百万円) | 22,221 | 18,331 | 27,398 |
投資活動によるCF | (百万円) | △19,139 | △18,258 | △15,228 |
財務活動によるCF | (百万円) | △5,825 | 8,995 | △7,496 |
2020年度は売上高3040億円に対して経常利益220億円。経常利益率7.3%でした。化学企業での全体平均がここ五年間は6-8%程度(財務省発行 年次別法人企業統計調査 より)なので平均的な水準です。
売上高も営業利益率ともに伸び悩んでいる印象が強いです。157期で売上高が急上昇したのは買収した日本農薬の売り上げを加えただけにすぎません。
時価総額で1200億円程度。同じ化学企業と比べると、収益力の割に少し株価は割安かと感じます。日経225にもJPX400にも属しておらず、海外投資家の目が向きにくいのか、株価のボラティリティは小さく安定しています。
ADEKAの注目ポイント
大黒柱である化学品事業が強い
2018年末に日本農薬株式会社を子会社化したことで連結売り上げが一気に600億円ほど伸びました。もともと6%程度の営業利益率を誇っていた同社といかにシナジーを生み出すかが今後の見どころです。
今後は情報・電子や機能化学品といった10%以上の営利を誇る付加価値の高い製品で増資引き受けで低下したキャッシュを補っていくとしています。農薬関連の販路や知見を生かして上手く売上3000億円の壁を突破できるかが焦点です。
食品事業での営業利益の弱さが目立つ
食品事業が継続して営業利益1~2%というラインを彷徨っています。
スペシャリティ製品でないため利幅が小さいのは仕方ないものの、売っても利益が出ないのは問題です。なにか原料高騰や不祥事などのイベントが発生すると簡単に赤字に触れてしまうからです。
食品事業という化学メーカーでは異質な柱を持っているのだから、その観点で知識を生かして伸ばしてほしいです。他と違う業種を持っていることがオリジナリティに繋がるので、この事業をどう収益化していくかが課題である。
安定した経営力でB/S上は文句なし
安定して利益を出していて自己資本比率50%と問題なし。営業CFもプラスで推移していて設備投資も恙なく行われている。流動資産も流動負債の2倍以上あるので安心安全の経営。資金が焦げ付く心配は全くない。
間違いなく10年後も生き残っている企業であり、化学系技術職の就職先候補の一つとして問題のない優良企業。先行きはライフサイエンスと食品事業の利益率をいかに伸ばしていけるかがカギです。
ADEKAの事業分野
化学品事業
売上1808億円 営業利益216億円 (営利 12.2%)
樹脂添加剤
自動車、家電及び食品包装容器等を主用途とするポリオレフィン用添加剤は海外での販路拡大により、汎用酸化防止剤などが好調に推移。また光安定剤の販売が欧州の自動車部材向け等で堅調だった。
家電筐体向けエンジニアリングプラスチック用難燃剤は、安定供給を強みとしたビジネスを展開し、中国を中心に販売が好調に推移。
安定剤・可塑剤は自動車部材向けにゴム用可塑剤が好調に推移したが、北米での競争激化により建材等に使用される塩ビ用安定剤の販売が低調に推移。全体としては前期を僅かに下回った。
情報・電子化学品
情報化学品は、大型液晶ディスプレイの高精細化が進むなか、光学フィルムやフォトレジスト向けに高い機能性を備えた光硬化樹脂、重合開始剤の販売が好調に推移。光酸発生剤など半導体リソグラフィ用材料が期を通じて伸長した。
電子材料はデータセンター向け等のメモリ需要が鈍化したものの、期を通じてDRAMや3D-NANDに使用される誘電材料の販売が好調に推移。液晶ディスプレイ関連向けにエッチング薬液等の販売が堅調。
機能化学品
界面化学品は自動車の燃費向上やCO2排出低減に寄与する潤滑油添加剤の販売が好調に推移。化粧品向け特殊界面活性剤の販売が海外を中心に好調。
機能性樹脂は、塗料等に使用される水系樹脂の販売が国内外で好調に推移。電子機器の接着用途でエポキシ樹脂関連製品の販売が好調。
工業用薬剤は、トイレタリー、化粧品等の日用品用途向けにプロピレングリコールの販売が好調に推移。
食品事業
売上 717億円 営業利益 12.6億円 (営利 1.8%)
海外では、販売体制の強化と現地ニーズにあった製品の開発などにより、中国、東南アジアで製パン・製菓向けにマーガリン、ショートニング類の販売が好調に推移しました。
食品事業全体では、乳原料などの原材料価格上昇の影響を受けた。
ライフサイエンス事業
売上344億 営業利益 33億円 (営利9.6 %)
農薬は、国内で主力製品の殺ダニ剤「ダニコング」や新製品の園芸用殺菌剤「パレード」などを中心に販売が堅調に推移した。
海外ではブラジル市場の回復による需要増加を受け、南米地域での販売が堅調。一方で、アジア地域は、前年の天候不順等を要因とする顧客の在庫調整が長引いたことなどから販売が低調。
医薬品は爪白癬分野で外用抗真菌剤「ルリコナゾール」の販売が好調に推移した。
ADEKAの就活情報
学歴ボーダーライン
技術系総合職は上位国立以上がメイン。東大や阪大などのトップ大学は少なく九大や北大などの旧帝大が上位層として君臨。化学系院卒ならば十分に勝機はある。
選考フロー
ES提出 ⇒ 適性検査 (SPI3) ⇒ 会社説明会 ⇒ 面接(2回) ⇒ 最終面接 ⇒ 内々定
ESは解禁後に随時受付。説明会の予約開始メールを受けて数分で予約できなければ選考にさえ乗れない。採用枠は速い者勝ちなので、早い説明会に乗れたモノが内定を取ってきて、大学ごとの採用枠が埋まれば終了というイメージです。
裁量労働制に注意したい
募集要項にて技術系総合職も裁量労働制を採用していると記述があります。新入社員にも適用されないでしょうが、入社後数年で適用される可能性があることは留意しておきましょう。
新卒で裁量労働制適用は法令違反の可能性あり
裁量労働制の適用業務の範囲は厚生労働省が定めた「専門業務型」と「企画業務型」の二種の業務にしか適応できないことになっています。
普通の企業なら知識が十分にあって、自身で労働時間を管理できる(誰にも命令されない)立場の人がのみ裁量労働制が適用されます。
新卒社員はまだ知識量も乏しく、上司に命令されて動くため自身で労働時間管理ができません。そのため司法的には入社3年目くらいまでの新入社員に裁量労働制を適用することは法に触れる可能性が高いです。
重要な沿革
1917年1月 | 電解ソーダの製造を目的として、旭電化工業株式会社を資本金100万円で創立 |
1928年11月 | 当社農業薬品部門を分離し、日本農薬㈱を設立 |
1967年10月 | 塩化ビニル用可塑剤の製造・販売を目的として、当社(当時、アデカ・アーガス化学㈱)、大日本インキ化学工業㈱ほか2社との合弁で、オキシラン化学㈱を設立 |
2005年10月 | 食品部門を強化するために、食品製造・販売会社である上原食品工業㈱の全株式を取得 |
2006年5月 | 当社、旭電化工業株式会社は、新本社ビルの完成に伴い、2006年5月1日付で「株式会社ADEKA」へ社名変更 |
2016年10月 | 化学品・食品の市場調査等を目的として、ベトナムホーチミン市に駐在員事務所を設立 |
2018年9月 | 日本農薬㈱株式に対する公開買付け及び第三者割当増資の引受けにより、日本農薬㈱を子会社化 |
ADEKAの平均年収・勤続年数
従業員数(人) | 平均年齢(歳) | 平均勤続年数(年) | 平均年収(円) |
1,702 | 38.5 | 15.5 | 7,018,551 |
ADEKAの従業員数は規模的には少な目です。勤続年数が15.5年と上場企業としては少し短いなという印象です。どこかにブラックな部署や人間関係が良くない部署だったり、待遇面での不満などがある可能性があります。平均年収は業界ではやや低め~普通の水準。
平均年収の算出方法がこれといって定められていないため、各社によって”どの職責までを平均に組み入れるのか”という基準が違います。
不当に低く見せたり、不当に高く見せたり自由自在です。
特にメーカーは社員の給与が高すぎると、それをダシにして取引先からもっと製品を安く売れとか恐喝されるので各社低めに算出する傾向があります
注目したADEKAのニュース
ADEKA 「EZマーガリンCP」の発売
2019年6月に発売されたEZマーガリンは風味と作業性を両立させた練りこみ用のマーガリンです。要は大量生産のパンとかに利用されるバター価格が高いので、バターの風味や味を上手く表現しているマーガリンを開発したとのこと。
コンパウンドでありながら作業性が良くてコストパフォーマンスに優れているそうでパンや洋菓子などの様々な用途に用いられる予定です。 作業温度幅が広く、低温でも⽣地に練り込まれやすいなど作業時間短縮による効率化 が図られています。
日本農薬株式会社を子会社化
2018年のエントリーですが重要なので載せます。ADEKAは株式取得により24%⇒51%として日本農薬を子会社化しました。農薬の合成技術と既存の化学事業で上手く事業効率化を図ることを目標にしているのでしょう。
筆者としては食品事業は営業利益2%と厳しい状況であるため、農薬事業と組み合わせてブランディングができれば最高だと感じています。また農薬の合成技術はライフサイエンスの医薬品事業とも協力できるのではないか。
親子上場は懸念点
子会社化なので浮動株は日本農薬が上場している東証一部で取引され続けます。 東京証券取引所も上場子会社の利益相反については懸念を表明しており、将来の火種になる可能性が高いです。
シナジーは親と子が一緒になって利益を最大化する行為です。 51%という中途半端な子会社化により、「シナジー」という名のもとにADEKA本体が得をして日本農薬が損をするという構図になります。日本農薬の株主をバカにした行為なので、近い将来には完全子会社化をするよう求められると思います。