知らねば損! 株式会社トクヤマをIRで企業研究

本稿では株式会社トクヤマのIRを紐解いていきます。経営状態や組織図をざっと俯瞰し、採用面接や企業選びに役立てて頂ければ幸いです。

トクヤマの基礎IR情報

回次第154期第155期第156期
決算年月2018年3月2019年3月2020年3月
売上高(百万円)308,061324,661316,096
経常利益(百万円)36,19633,40032,837
自己資本比率(%)34.740.244
自己資本利益率(%)15.624.612.4
株価収益率(倍)13.035.37.29
営業活動によるCF(百万円)61,88538,53152,364
投資活動によるCF(百万円)△12,665△16,174△20,548
財務活動によるCF(百万円)△101,209△21,104△18,348

2019年度は売上高3247億円に対して営業利益330億円。経常利益率10%。化学企業での全体平均がここ五年間は6-8%程度(財務省発行 年次別法人企業統計調査 より)なため平均より高めといえます。

売上も経常利益率も上昇傾向にあり、2013年ごろの水準を超えて成長し初めています。

事業失敗にもめげずに業績を回復させているのは素晴らしいです。賞与のカットなどで社員も痛みを感じていたようなので回復してよかったです

トクヤマの注目ポイント

トクヤマは間違いなく10年後も生き残っている企業であり、化学系技術職の就職先候補の一つとして問題ない優良企業です。

個人的には特殊品セグメントの成長を楽しみにしている。筆者も就活のときに検討したが、就活生もさほど意識していないので隠れた穴場優良企業だと思っている。ダイセルみたいなものですね。

マレーシアでの太陽電池事業の大失敗

上表に太斜字で示した出来事は、マレーシアで2000億円を掛けて投資した多結晶シリコン事業が大失敗したことによる後始末です。

多結晶シリコン用途は当時持て囃されていた太陽電池向けです。毎年の経常利益の数倍という巨額を注ぎ込んだ社運を賭けたプロジェクトでしたが、工場の建設中に中国などの企業が続々と参入して激しい価格競争が起こり、多結晶シリコン価格が想定以上に激減しました。

凄い生産能力を持つラインを何個も投入したはいいが、生産するほど赤字になる状況になり、泣く泣く売却したのがこの出来事です。売却額はたった100億円程度なので1900億円の赤字を出しました。

紛れもなく会社の存続危機となったわけです。

大損失からV字回復

1900億円を失ったトクヤマは2016年から自己資本比率10%を切るような経営危機に陥っていましたが、この2017年の事業切り離しのおかげで今では40%程度の水準まで自己資本比率が回復した。

もとから収益性は他の企業と比べても高かったため、立て直しが早かった模様。現に営業活動によるキャッシュフローがマイナス転落していない点に既存事業の底堅さを感じます。

この経験は会社にとって意味のある成長に繋がったと考えます。

基幹製品が軒並み営業利益率15%もある

もともと日本曹達の時代から培っている化成品の知名度からか、苛性ソーダや塩酸カルシウムといった基礎化成品がビックリするぐらいの高利益率を有している。

窒化アルミニウムなどを扱う特殊品では高付加価値を実現しており、この基幹製品の底堅さこそトクヤマの特徴といえる。

経営力回復でB/S上は全く問題なし

安定して化学企業の平均以上の利益を出している。V字回復により達した自己資本比率40%という水準は業績の心配もなく問題ないレベルである。

営業CFも大幅なプラスで毎年推移しており、設備投資も積極的に行われているため問題なし。流動資産も流動負債を2倍以上上回っているため資金が焦げ付く心配は全くない。

株価も2016年につけた620円を皮切りにしてV字回復しており、新たに収益を生み出せる体質となったことが評価されているように感じます。

トクヤマの就活情報

学歴ボーダーライン

技術系総合職は国立院卒以上がメイン。トクヤマというだけあって地元山口県の人気が高い。東大や阪大などのトップ大学はほとんどいない。化学系院卒ならば十分に勝機はある。

選考フロー

個別説明会 ⇒ ES提出 ⇒ 適性検査 ⇒面接(数回) ⇒  最終面接 ⇒ 内々定

事業の利益と製品一覧

化成品特殊品セメントライフアメニティーそのほか合計
2020年3月期売上93,73054,46687,28956,30765,232357,026
2020年3月期営業利益15,3667,0583,8352,8856,93536,082

売上の約半数を占めるセメントとライフアメニティの利益が低めです。

セメントには付加価値を付けにくいことや海外の安いセメントが入ってきてレッドオーシャンになっているのが原因でしょう。建築や道路補修などに利用されるため需要は安定的ですが、これ以上の成長は見込めない分野です。

ライフアメニティは 医療診断システムや微多孔フィルムなど付加価値の高い事業分野です。トクヤマとしても人員を増強して開発を進めたいでしょう。

こういった研究分野として専門に学んでいる人はトクヤマに採用面接を受ければ受かりやすいと思います。企業分析はこういった「自分の専攻に応じた企業を受けて有利に立ち回る」という面でも活躍してくれますね。

セグメント毎の主要な製品

化成品セグメント

苛性ソーダ、ソーダ灰、塩化カルシウム、珪酸ソーダ、塩化ビニルモノマー、塩化ビニル樹脂、酸化プロピレン、イソプロピルアルコール、塩素系溶剤等を製造・販売

特殊品セグメント

多結晶シリコン、乾式シリカ、四塩化珪素、窒化アルミニウム、電子工業用高純度薬品、フォトレジスト用現像液等を製造・販売

セメントセグメント

セメント、生コンクリート、セメント系固化材等の製造・販売及び資源リサイクルを行っている。

ライフアメニティーセグメント

ポリオレフィンフィルム、樹脂サッシ、医療診断システム、歯科器材、イオン交換膜、医薬品原薬・中間体、プラスチックレンズ関連材料、微多孔質フィルム等を製造・販売

重要な沿革

会社沿革は面接でのネタになるため、目指すなら一応は知っておいた方がいいです。キーポイントはどの製品がいつ頃始まったのか、直近にあった出来事は何だったかを記憶しておくことです。

年月日出来事
1918年2月アンモニア法ソーダ製造のため資本金200万円をもって山口県徳山町(現 山口県周南市)に日本曹達工業株式会社として発足
1938年3月徳山工場において湿式法による普通ポルトランドセメントの製造を開始
1952年3月徳山工場において電解苛性ソーダの製造を開始
1972年11月技術研究所(現 徳山研究所)新設
1976年1月東工場において二軸延伸ポリプロピレンフィルムの製造を開始
1984年7月東工場において多結晶シリコンの製造を開始
1989年5月つくば研究所新設
1994年4月商号を株式会社トクヤマに変更
2009年8月マレーシアに多結晶シリコンの製造販売会社 Tokuyama Malaysia Sdn. Bhd.を設立
2014年3月ソーダ灰・塩化カルシウムの共同事業会社 トクヤマ・セントラルソーダ株式会社(現 株式会社トクヤマソーダ販売(現 連結子会社))を設立
2014年6月生コンクリートの製造販売会社 広島トクヤマ生コン株式会社(現 連結子会社)を設立
2015年10月産業用洗浄剤の製造販売会社 株式会社トクヤマMETEL(現 連結子会社)営業開始
2017年5月Tokuyama Malaysia Sdn. Bhd. の全株式を譲渡
2018年7月総合物流会社 徳山海陸運送株式会社(現 連結子会社)の全株式を取得

注目したトクヤマのニュース

台湾プラスチックと合弁 22年に新工場

2020年9月25日に台湾塑膠工業と 50%ずつ出資して、半導体製造用の洗浄液の新工場を建設すると発表しました。22年からの稼働予定です。

製造するのはイソプロピルアルコールで、半導体産業の一大基地である台湾で洗浄液需要が高まっているので生産拠点を現地に整備するようです。 台湾塑膠工業 がイソプロピルアルコールの原料であるプロピレンを供給するみたい。

もともと磯プロピルアルコールを製造して台湾に送っていたため、生産合理化ということで現地生産を決めたのでしょう。原料など安い製品の輸送費ってバカにならないくらい製品価格に乗ってきますので。

樹脂フィルムの製造子会社の株式をレンゴーに売却

2020年9月25日の発表では、トクヤマが80%を出資している樹脂フィルム製造子会社のサン・トックスの株式を46%レンゴーに譲渡するようです。

これでサン・トックスは子会社から関連会社になるので持分法適用です。売却の目的はレンゴー指揮での事業運営の方が上手くいくとの判断なのでしょう。

ちなみにレンゴーは段ボールや板紙を本業としている売上6000億円の大企業です。ええ、トクヤマよりも大企業です。大小包装事業も行っているため、そことのシナジーを生み出すためだと思います。

トクヤマの平均年収・勤続年数

従業員数(人)平均年齢(歳)平均勤続年数(年)平均年収(円)
1,92442.4620.567,141,881

トクヤマの従業員数は規模的には普通です。勤続年数が20年越えであり、平均年齢も高いところから社員を大切にしている印象が伝わってきます。平均給与も業界では普通の水準。

平均年間給与は参考程度に

平均給与額の算出方法がこれといって定められていないため、各社によって”どの職責までを平均に組み入れるのか”という基準が違います。

不当に低く見せたり、不当に高く見せたり自由自在です。

特にメーカーは社員の給与が高すぎると、それをダシにして取引先からもっと製品を安く売れとか恐喝されるので各社低めに算出する傾向があります

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