知らねば損! 東ソー化学株式会社をIRで企業研究

本稿では東ソー株式会社の有価証券報告書を紐解いて会社分析をしていきたいと思います。経営状態や組織図をざっと俯瞰し、自分が本当に目指したい会社なのかの検討に役立てて頂ければ幸いです。

東ソーの基礎IR情報

回次 第118期第119期第120期
決算年月 2017年3月2018年3月2019年3月
売上高(百万円)743,028822,857861,456
経常利益(百万円)113,094132,256113,027
当期純利益(百万円)75,66488,79578,133
自己資本比率(%)53.15861.6
自己資本利益率(%)20.119.615.1
営業活動によるCF(百万円)115,715115,42977,511
投資活動によるCF(百万円)△34,723△43,129△63,310
財務活動によるCF(百万円)△68,829△51,744△26,962
フリーCF(百万円)809927230014201

東ソー株式会社について、2019年度は売上高8615億円に対して経常利益1130億円。経常利益率12.5%。

化学企業での全体平均がここ五年間は経常利益6-8%程度(財務省発行 年次別法人企業統計調査 より)なため、高めの水準です。フリーCFは5年連続プラスで流動比率も2倍あります。自己資本比率も60%台なので全くもって健全な財務です。

原料から製品までをカバーする総合化学企業として事業を行っており、化学企業としては売り上げ規模で第11位のポジションにいます。総合化学企業をあげろと言われたら五本の指には入るぐらい有名な企業です。

投資家視点での分析

株価はボラティリティが少し高めです。東証一部の化学企業ということで安定はしていますが、売上や利益面での大きな進展はない。ここ数年の株価は景気に左右されているというのが実情でしょう。

化学メーカーは底堅い商売なので売り上げが極端に増減する事態は殆どありません。そのためIT系企業に比べると株価は殆ど変動しない傾向があります。

東ソーの事業内容と注目点

他社のトラブルにより基礎化学品の利益が高騰

2017年より利益が1.5倍ほどに飛躍的に伸びています。売上の半数以上を占める基礎化学品の利益率が上昇したことが主な要因です。この利益率上昇は同業他社のトラブルが相次いで基礎化学品の値段が高騰したことが原因です。

それからは利益率が高まった状態が続いていますが、直近の2019年3Q決算では売上高5900億円と前年度に比べて500億円ほど減少していました。

それでも営業利益は11%位あるので十分でしょう。円高による原材料高騰や単純な販売量減少が効いたようです。

これも2011年の悪夢を受けて安全第一という意識で生産を続けてきたお陰です。さて東ソーで2011年に起きた事件を振り返ってみましょう。

2011年 南陽事業所での大規模爆発事故

工場のオキシ反応工程A系の緊急放出弁が故障したことに端を発する事故。以下のようなドミノ倒しで大爆発につながった。

オキシ反応工程A系の緊急放出弁 の故障 ⇒ オキシ反応工程A系が停止 ⇒ 塩化水素を蒸留精製する塩酸塔の運転状態が変動 ⇒ 変動へのスタッフの対応不備 ⇒ 塩酸塔の塔頂のHCl中に塩化ビニルモノマー(VCM)が 混入 ⇒ プラント全工程が緊急停止 ⇒ 塩酸一時受タンク内に溜まったHClとVCMの混合液がタンクの錆を触媒として発熱反応を起こす ⇒ 内部圧力が異常上昇 ⇒塩酸塔還流槽の破裂と爆発、 火災

汎用品と特殊品のバランスが良い

ウレタン・化学品・セメント・ポリマーなどなど多彩な製品群を扱っています。これらは塩ビなどの基礎化学品と独自機能を持たせたスペシャリティ製品とに分けることができます。

2016年度までは汎用品の利益率が2~3%で、15%ほどある特殊品の利益率で営業利益を底上げするという決算になっていました。だから筆者が持つ東ソーの営業利益率って、8%くらいのイメージです。現在とはかなり相違があります。

国際的に競争の激しい汎用品は営業利益が低くなりがち

生産コストの高い日本企業が不得意である基礎化学品ではさほど利益が出るものではありません。

これは信越化学工業や三菱瓦斯化学のように、海外子会社による大規模生産の利益を連結で取り入れているとは違って、コストのかかる国内で基礎化学品を生産しているからでしょう。

ただ、ここに来て汎用品が稼ぎ頭になってきたのが面白いですね。汎用品の売り上げが5000億円とかあるだけに、利益率が上がってきたことで一気に化けましたね。

BtB企業はストックビジネス

化学基礎素材を買う企業は量産のために数年間にわたって大量購入するため、一度大口契約を結んでしまえば数年は継続して利益を出すことが出来ます。

東ソーの利益率が高い状態が3年も続いているのは、2017年に化学材料の調達先を他社から東ソーに乗り換えた企業が多いからでしょう。

分かりやすい決算資料を出している

 会社の評価とは関係ないが、冗長な表現が多くなる有価証券報告書が際立って分かりやすく書かれていました。例えば中期経営計画。通常はだらだらと書かれていて読みにくい場合が多いですが、東ソーの場合はホワイトボードに要点を整理するがごとく理路整然と記載されていました。

 このような開示業務は経理で実権を握っている人間が書いていることが多いです。つまり、その人の文章力や性格がそのまま書面に反映されます。こういう点でも「ああ、この会社の人は優秀だな」とか思いました。

 これはESでも同様ですね。文章力や考え方から、聡明な人物か否かは分かります。駄文なく分かりやすい文章を書いていきたいですね。

東ソーの名前の由来

東洋曹達工業株式会社を1987年に東ソーと名称変更しました。

多くの企業が最近まで〇〇工業という名前を貫いてきたのに、東ソーは昭和の時期に名前変えちゃって、時代を先取りしているなと感じました。

面白いことに東洋曹達工業株式会社は今の株式会社トクヤマに勤めていた岩瀬徳三郎さんが退社して、独立する形で山口県に起こした会社です。だから技術の源流はトクヤマにあるのかもしれませんね 笑。

ちなみに東ソーの企業メッセージは「明日のしあわせを化学する」です。案外知っておくと面接で使えるかもしれません。

東ソーの事業分野一覧

 売上高(億円)営業利益(億円)営業利益率(%)単体従事人数
石 油 化 学 事 業18391347.3 925
ク ロ ル ・ ア ル カ リ 事 業337346013.6 1,418
  機 能 商 品 事 業197435317.9 1,158
 エ ン ジ ニ ア リ ン グ 事 業989838.4
 そ の 他 事 業438276.2

石油化学事業はコモディティ中心だと思うので、これから新卒を入れるなら利益率の高い機能商品事業が一番多いでしょう。

主な事業所は内定者山口と四日市です。

私の友人は研究分野的には四日市に所属しそうでしたが、山口に配属されました。あまり専攻で決め打ちで内定者が選ばれるものでもないようです。

・ 太平洋セメント株式会社にセメントの全面的な販売委託をしている

・ 2000年に三井化学株式会社及びデンカ株式会社と塩化ビニル樹脂事業を再構築するため合弁契約を締結している

 
東ソー単体にエンジニアリング事業はない

東ソーに入社すると石油化学・クロルアルカリ・機能商品のどこかに配属されます。ただエンジニアリングの人員は常にどの分野でも需要はあるので、競争率が低く穴場スポットかもしれません

↓エンジニアリング事業↓

・オルガノ(株)による水処理装置部門
・東北電機鉄工による各種プラント工事、電気工事の設計・製作・取付・施工。

東ソーの就活情報

学歴ボーダーライン

下位旧帝大と上位国立大学の学生が多いかなというイメージ。理系院卒なら普通に目指せる企業かと思います。ちなみに化学系メーカーはどこでもそうですが、文系は採用数も少なく修羅です。

選考フロー詳細

説明会⇒ES提出+適性検査⇒懇談会・面接⇒技術面接・最終面接⇒内定

東ソーの選考は適性検査でまったりした性格じゃないと落とされます挑戦的でなんでもやってみるぞ! という性格判定の人はもれなく落ちるでしょう。

説明会も物静かな、悪く言えば暗い感じの人が多いですね。まあ社風です。あとWEBテストもけっこう特殊な連想ゲームなので楽しみにしてください。

主要事業の動向

石油化学事業

エチレン、プロピレン:生産量の減少に伴い出荷が減少したが製品価格は上昇して穴埋め。

ポリエチレン樹脂:製品価格が上昇。

クロロプレンゴム:堅調な海外需要を背景に輸出価格が上昇。

ク ロ ル ・ ア ル カ リ 事 業

苛性ソーダ:国内外とも出荷堅調。

塩化ビニルモノマー:海外市況の上昇により製品価格は上昇。

塩化ビニル樹脂:製品価格上昇。

セメント:国内出荷は堅調に推移。

ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI):輸出価格が下落。

機 能 商 品 事 業

エチレンアミン:出荷が減少

計測関連商品:欧州向けを中心に液体クロマトグラフィー用充填剤の出荷が減少

診断関連商品:アジアで体外診断用医薬品の出荷が増加。

ハイシリカゼオライト:自動車排ガス触媒用途を中心に輸出が増加。

ジルコニア:装飾品用途での出荷が増加

石英ガラス:半導体製造装置向けに出荷が増加。

単独の平均勤続年数は減少傾向

 2015年2016年2017年2018年2019年
従業員数3,326人3,338人3,337人3,404人3,501人
平均年齢41歳40.6歳40.3歳39.9歳39.5歳
平均勤続年数16年15.5年14.8年14.7年14.6年

平均勤続年数が5年間で16⇒14.6と約1.5年も減少しています。平均年齢も一気に減っていることから団塊世代が退職したものと考えられます。

従業員数はここ二年ほどで150人ほど伸びていることから、新卒が沢山流入して平均年齢と勤続年数を押し下げている効果も表れているでしょう

重要な沿革

1935年2月東洋曹達工業株式会社を設立(現・山口県周南市)
1949年5月東京証券取引所に株式上場
1987年10月東ソー株式会社へ商号変更
2014年10月日本ポリウレタン工業株式会社と合併し、ビニル・イソシアネート・チェーンの一貫体制を確立
2015年2月マレーシアにトーソー・アドバンスド・マテリアルズSdn.Bhd.を設立(現・連結子会社)

東ソーの平均年収・勤続年数

従業員数(名)平均年齢(歳)平均勤続年数(年)平均年間給与(千円)
3,50139.514.67,938

東ソーは売上にしては従業員数が少なめです。勤続年数が14.6年と短めな水準です。平均給与も業界では中の上といったところ。大手総合化学メーカーなら普通の給与水準でしょう。

ただ平均年間給与はクセモノですので参考程度に見てください。平均給与額の算出方法がこれといって定められていないため、各社によって”どの職種を平均に組み入れるのか”という基準が違います。つまり不当に低く見せたり、不当に高く見せたり自由自在です。

特にメーカーは社員の給与が高すぎると、それをダシにして取引先からもっと製品を安く売れとか恐喝されるので各社低めに算出する傾向があります。新日鉄住金株式会社(現 日本製鉄株式会社)なんて、その最たる例かと思います。

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